中国といえば海賊版ソフトウェアが世界一蔓延している国として名を馳せており、事実、
2007年に中国国内で販売されたソフトウェアの”80%以上”が海賊版であったことがビジネスソフトウェア協会によって報告されています。
そんな海賊版大国に業を煮やしたのが世界で最もライセンスを多く発行しているマイクロソフトです。
同社が誇る最大のライセンス製品は言わずと知れた「Windows」ですが、
中国では正規版のWindowsを使っているユーザは全体の1%もいないと言われています。正確なデータは不明ですが、
中国の秋葉原と言われる中関村でさえ、正規版の売上数に対して海賊版の売上数は9割以上だそうです。
購入者の半分以上は、その商品がマイクロソフト純正ではないことを知った上で購入しており、
残りの購入者もなんとなくマイクロソフトの海賊版であることを認識しているようです。これまでに欧米、日本、
そして中国のメディアが特集を組んでこのトピックを取り上げてきましたが、いずれの特集でも同じことが述べてありました。
主な購入理由を調べると次の3点にまとまります。
・海賊版は正規版の1/10以下の値段で販売されている
・海賊版は最新Update済でパッケージ化されている
・海賊版使用に対する厳しいペナルティが事実上課されていない
つまり、値段が圧倒的に安くて機能面も優っており使っていても特に罰せられることは無いというのですから、
モラルハザードが起きて海賊版が蔓延するのは自然な流れです。水は低きに流れるものです。
このように現在の中国で最も著作権侵害を受けているのは間違いなくマイクロソフトのWindowsでしょう。
すでに世界最大の市場になっている中国だからこそ、そこでの侵害行為に対してマイクロソフトは対抗措置を打ち出したのです。
マイクロソフトが実施した措置は次の通り。
『海賊版ウィンドウズOSのユーザーが正規版確認に失敗した場合、起動後のデスクトップの背景が黒に変わる。
また海賊版オフィスのユーザーには、2時間に1回のダイアログボックスで注意が促される。』
これに対して中国ユーザのネット上での反応は、モラルハザードの極致というか盗人猛々しいというか、
空いた口がふさがらない残念な反応が多くを占めています。
・勝手に人のPCの壁紙を真っ黒に変えるなんて犯罪行為だ!
→著作権侵害という犯罪行為は棚上げですか?
・Windows正規版が高すぎるからいけないんだろう!
→十分値下げしてます。オフィス等109ドルから29ドルへ値引済
→中国国産のRed Flag(紅旗) Linuxを選択することもできますよ
・発展途上国の利用者の意向を無視した行為だ!
→特別扱いしろという意味ですか?
→既に値下げもしているし数年にわたって警告も出してますよ!
日本も1990年前半までは違法コピーが蔓延していましたが、ここまで盗人猛々しい態度を堂々と取る人はいませんでしたね。
ニュースサイトのEnterprise Security Todayによれば、上海でインタビューした24歳の広告マンは、
「デスクトップが黒くなっただけで実害は無いから、これからも海賊版を使い続けるよ」とコメントしていました。
もちろん、こういった自分勝手な主張をしている人だけでなく、
権利の意味を理解して今回のマイクロソフトの措置に理解を示している中国ソフトウェア連盟のような組織もありますが、
一般市民には上記の認識が多いようです。
中国当局の対応はどうかといえば、中国国家版権局の閻暁宏副局長は10/27、マイクロソフトがWindows
Updateの機能を通じて今年の8月以降、自動更新を行った「ブラックスクリーン」の海賊版対策に付いて、
「マイクロソフトをはじめとする権利者の合法的な権利保護行為を支持するが、
権利保護に当たっては適切な方法を取るよう注意を促すべきであり、今回の措置についてはなお検討が必要」(10月29日付け人民網)
とするコメントを発表しました。
中国内の情勢を慎重に踏まえた上でこのコメントを出しており、
マイクロソフトの姿勢を概ね支持しつつ市民の不満にも配慮した内容になっています。ただし事実上、
当局が強制力を持った権利保護行為を認めたということであり、今後、
他のベンダーもアクティベーションによる権利保護をさらに強力に推進する可能性があります。
もっとも、ソフトウェアをモノとして販売するビジネスモデル自体、いつまで続くのか分からないのが昨今のこの業界です。SaaS、
クラウドコンピューティングの台頭によって、今後オンラインでソフトウェアの機能を提供するところはどんどん増えていくことでしょう。
Windowsがモノ売りからサービス消費型に変わることができれば、
こういったITモラルハザードから一切開放されるに違いありません。
posted by 吉澤準特 at 21:33
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