今週に入ってから、IT業界に生息する感度の高い方々がこぞって取り上げているのがこれ。
「情報システムのパフォーマンスベース契約に関する調査研究」(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20090731004/20090731004-2.pdfこのレポートはIT業界の有識者を集めて検討を重ねた結果ですから、現在のIT業界が抱えている問題意識が集約されています。このレポートの背景には、「人月単価契約からサービス成果報酬契約に変えていかないと、ベンダー間の価格競争で業界は疲弊し、これからの情報サービス産業は競争力を失っていく」、という危機感がよく感じ取れます。
これは次の問題意識ではっきりと書かれています。
(ユーザ側の問題)
・価格への不信
→見積の妥当性に疑問を感じる
・ベンダーへの不満
→ベンダから積極的な提案が得られない
(ベンダー側の問題)
・価格への不満
→品質や機能優位、開発効率向上などの評価が価格に反映されない
・モチベーション低下
→新技術導入や改善といった付加価値創出への動機付けが働かない
お気づきの方もいると思いますが、このレポートの提言が目指しているところは、端的に言えば成果報酬型のビジネスモデル(PBC:パフォーマンスベースコントラクト)です。KPIを設定して成果をモニタリング、達成状況によってインセンティブやペナルティを付けようというもので、これは積み上げが他の人月単価契約とは正反対の考え方です。
成果報酬型のシステム開発を実現するポイントは、ユーザーとベンダーが同じ目線で考えることができるようになることだと私は常々思っているのですが、レポートにはPBC成功のカギとしてこのような記載がありました。
『PBCを適用した契約では、ユーザとベンダが一つの目的を共有する。また、ユーザの情報システム部門だけでなく、ユーザの投資効果拡大がベンダにとってもインセンティブの獲得につながることから、同じ目的への行動が両者にメリットをもたらす、「Win-Winの関係を実現」することがPBC成功の鍵である。言い換えると、ユーザあるいはベンダどちらか一方しかメリットが享受できないPBCであれば、成功したとは言い難い。また、目的を共有した上で、双方が協働して創出する価値を増大させることが重要である。』
経産省が良いことを言いましたね。
もっとも、現実的にはお互いが自分の利益を考えることは当然のことですから、双方にうまみのある仕組みを契約で合意するのはなかなか難しいでしょう。現在の流れでいえば、運用業務の委託などはアウトソーシング化が進んでおり、成果報酬型のサービス契約を結んでいるところもいくつかありますから、そこの契約形態をテンプレートとして流用し、開発案件向けの契約形態を考えることが早そうです。
基本的な契約金額は次の式で表すことができます。
フィックスコスト(完全固定価格分)
+ベースライン(基本的な価格)
+インセンティブ(成果達成による上乗せ価格)
−ペナルティ(成果未達による値引き価格)
あとはここの価格要素(KPI)の掘り下げと、評価・見直しタイミング(契約更改時期)の設定でしょう。参考情報として、すでに経産省はサービス契約向けのSLA一覧を公表していますが、こちらはシステム運用を主眼としたKPIが列挙されているものであり、今回の検討のインプットにはならないでしょう。
今回の討論に参加したベンダーは、過去に成果報酬型の契約をいくつか結んだことがあるはずですから、そのときの指標をお互いに持ち寄って、業界標準のKPIを定義してもらいたいですね。
posted by 吉澤準特 at 14:01
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