利用者不在のシステム開発の典型例ですね。システム要件定義の際、ユーザーニーズの掘り起こし以前に、e-Japan構想に沿って作ること自体が目的になってしまったように思えます。
『会計検査院は2日、独立行政法人「産業技術総合研究所」が、微生物の特許出願に関連する電子申請システムを導入したものの、4年間全く使われていなかったと発表した。同研究所はシステムの開発や保守に8754万円をかけていた。
(中略)
しかし電子申請には電子証明書の取得とカードリーダーの購入が必要で、サンプルそのものを提出する手間は同じだった。4年間に申請は約4万件あったが、電子システムによる申請は1件もなかった。』
(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090902-00000038-mai-soci)
近々廃止されるそうです。たぶん、5年間の減価償却期間に沿って廃止されるだけなのでしょう。
そういえば、3年前にはパスポート電子申請システムも利用者が皆無に近くて廃止されました。保坂氏のブログに詳しい話が載っているので一部を紹介します。
『旅券(パスポート)を電子申請するシステムは04年から始まったが、その利用者は05年末までに133人しかいない。一方で、投下した費用は05年末までに21億3300万円と巨額で、ひとりあたりで割るとなんとパスポート一冊発行に1600万円かかるというから驚きだ。
(中略)
システムを受注・開発したのはNTTコミュニケーションズで、2001年〜04年まででシステム開発・実証実験などで、約20億円が投じられていることが判明した。運用が始まってからは、04年12億4500万円、05年8億8800万円、06年8億6200万円と合計で29億9500万円のランニングコストがかかっている。
読売新聞の記事にある「1600万円」は、04年〜05年の2年間の運用経費(12億 4500万円+8億8800万円=21億3300万円)をパスポート発行人数で割った数値なので、さらに開発経費約20億円を加算すると、20億円+21 億3300万円で41億3300万円と、05年末までのひとりあたりのコストは3000万円に倍増する可能性もある。』
(http://blog.goo.ne.jp/hosakanobuto/e/0899dbaf9289b0603b7cfd1fa70b8d21)
これ、電子政府化、すなわちe-Japan構想による開発ありきの姿勢が生んだ結果です。ITリーダーズのサイトでは、他にも次のような廃止システムがあったと紹介しています。
・「ワーストワン」となったのは、防衛省の「申請届出等システム」だ。開発費3億8626万円、年間運営費3692万円に対し、2007年度の利用件数はわずか4件。開発費を含めると、1件当りのコストは1億円に達する。
・文部科学省の「オンライン申請システム」は、開発費が11億7886万円、年間運営費1億900万円に対して年間利用件数は115件。2年間で250件の利用があったとして、開発費と運営費を合算した1件当りのコストは515万円だ。
・沖縄県駐留軍用地の返還にともなう給付金支給申請システム(初期費用:3.9億円、ランニング費用:0.4億円/年、利用件数:4件/年)
・政治資金・政党助成申請・届出オンラインシステム(初期費用:5.7億円、ランニング費用:2.9億円/年、利用件数:0件/年)
・公益法人の事業計画書及び収支報告書の届出システム(初期費用:5.2億円、ランニング費用:0.4億円/年、利用件数:29件/年)
・高校卒業程度認定試験の合格証の交付手続きシステム(初期費用:11.8億円、ランニング費用:1.1億円/年、利用件数:115件/年)
・製造タバコの小売販売業の許可等239手続きシステム(初期費用:0.5億円、ランニング費用:0.1億円/年、利用件数:55件/年)
・恩給申請手続きシステム(初期費用:1.9億円、ランニング費用:0.6億円/年、利用件数:476件/年)
(http://it.impressbm.co.jp/e/2009/08/28/1128)
公共事業の色合いが強い政府のSI案件ですが、これは無駄遣いと断じても良いレベルです。平均利用率が1%以下と言われるe-Japan構想の産物について、IT業界の皆さんは反面教師として参考にしてみて下さい。
posted by 吉澤準特 at 18:32
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