IT業界では今年最初の大ニュースとして注目されていた東京証券取引所の次世代株式売買システム『アローヘッド』は、正月の稼動テストを無事に乗り切って、ついに1月4日から稼働することになりました。
asahi.comに分かりやすい記事が出ていたので引用します。
『東京証券取引所は、株式の売買注文を処理するコンピューターシステムを4日から欧米並みに高速化させる。売買システムの全面更新は10年ぶり。処理速度は従来の約500倍で、瞬時の取引成立が可能になる。海外のファンドなどが多用する「自動売買」の注文を呼び込み、取引拡大を図る考えだ。あわせてストップ安などの制限値幅も拡大する。
これまでは、証券会社が売買注文を出してから注文の受け付けが確認できるまで2〜3秒かかっていた。「アローヘッド」と名付けた新システムでは0.005秒に短縮でき、ニューヨーク、ロンドン証券取引所などに近い水準に追いつく。導入にあわせ、ストップ高・ストップ安の基準となる制限値幅をこれまでの最大2倍に緩和。制限のない取引に慣れた海外投資家の参入を促す。 』
http://www.asahi.com/business/update/0103/TKY201001030131.html
証券業界のITに詳しくない人もなんとなく知っているかもしれませんが、東証のITインフラはグローバルレベルで見るとかなり貧弱なものであり、ニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所と比べると、システムの反応速度が100倍以上も遅かったのです。
それが、今回のアローヘッドリリースに伴なって反応速度が飛躍的に増し、ようやく海外のファンドを呼び込めるようになりました。マーケットに参加する人々が増えることで売買件数もかなり増えることでしょう。
ちなみに、東証の新サービスとしてコロケーションサービスが開始されます。コロケーションサービスが何なのかは東証ウェブサイトの説明が分かりやすいでしょう。
『取引参加者等の機器(自動発注サーバー等)と売買システムや相場報道システム等との物理的距離を極小化することで、レイテンシー(ネットワーク機器におけるデータ授受の遅延)の低下を実現させるため、取引所のデータセンター又はネットワークのアクセスポイント(AP)に近接する場所に設置し接続することです。
売買システムや相場報道システムが高速化して10ミリセカンド(千分の1秒)以下で処理できるなど世界中の証券市場のシステムは超高速化しているため、「いかに速く相場情報を得て、いかに速く発注するか」が極めて重要視されています。
この速度を究極的に速める方法として、コロケーションが主に米国証券市場でここ数年急速に発達し、複雑なプログラムを組んで大量に多数の銘柄を高速で売買する証券会社、自己売買専門業者、ヘッジファンド等は、こうしたプログラムのアプリケーションを搭載した機器を取引所データセンター内にコロケーションしています。』
http://www.tse.or.jp/news/200808/080826_a.html
この新サービスによって、2010年は日本の証券業界を取り巻くIT投資が激増するでしょう。
しかし、楽観ばかりしていられないのも事実。このコロケーションサービスというのは、大手証券会社やファンドには利する話ですが、中小の業者は市場退場を余儀なくされる危険性も孕んでいるからです。
例えば、ロイターでは次のような記事が掲載されています。
『短期的な売買による利益を収益源としているディーリング専業や、経営に占める比率が高い中小規模の証券会社にとって、アローヘッド導入は死活問題になる可能性が出てきている。
年明け後の株式市場では、目視で株価の微妙なアヤをとらえて稼ぐ「人間技」では太刀打ちできなくなる。 (中略) 業容は縮小や、場合によっては自主廃業も選択肢に入ってくるのではないか」と話す。 (中略) 目にも留まらぬ速さは相場の臨場感も薄れさせるため、影響は「古典的なディーリング売買ができなくなるだけではない。対面営業では電話で相場を実況中継のように顧客に伝えて注文を取るところもあるが、そうした古くからある営業手法が難しくなる」といった声もあった。
コロケーションサービスを利用すると情報配信方法を多様化させ、注文発注の柔軟性を高めることができる半面、導入するには多額の設備投資を要するとともに、大口注文が入らないと投下費用を回収できないという事態にも直面してしまう。』
http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPJAPAN-13039120091221
さてさて、これで中小証券業者のIT投資はどのように変わるのでしょうか、要注目です。
posted by 吉澤準特 at 23:50
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