愛知県の岡崎市立図書館に不正アクセスしたとして、同県の男性が逮捕されました。しかし、事件の内容が明らかになるにつれて、不当な逮捕であったことが分かってきました。
事の経緯はasahi.comが詳しかったので、そちらを引用します。
『愛知県内の男性(39)が、自作プログラムで図書館ホームページから新着図書の情報を集めたところ、サイバー攻撃を仕掛けたとして逮捕された。しかし、朝日新聞が依頼した専門家の解析によると、図書館ソフトに不具合があり、大量アクセスによる攻撃を受けたように見えていたことが分かった。同じソフトを使う全国6カ所の図書館でも同様の障害が起きていたことも判明。ソフト開発会社は全国約30の図書館で改修を始めた。
この問題は同県岡崎市立図書館で起きた。ソフトには、蔵書データを呼び出すたびに電算処理が継続中の状態になり、電話の通話後に受話器を上げたままのような状態になる不具合があった。一定の時間がたつと強制的に切断されるが、同図書館では10分間にアクセスが約1千件を超えると、ホームページの閲覧ができなくなり、大量アクセスを受けたように見えたという。
男性はソフトウエア技術者で、岡崎市立図書館から年に約100冊借りていた。図書館のホームページは使い勝手が悪く、新着図書の情報を毎日集めるプログラムを作り、3月から使い始めた。
図書館には同月以降、「ホームページにつながらない」と市民から苦情があった。相談を受けた愛知県警は、処理能力を超える要求を故意に送りつけたと判断し、業務妨害容疑で男性を逮捕した。名古屋地検岡崎支部は6月、「業務妨害の強い意図は認められない」として起訴猶予処分とした。 』
http://www.asahi.com/national/update/0820/NGY201008200021.html
一番突っ込みたくなるのは、10分間にアクセスが1000件を超えるとホームページの閲覧ができなくなるという、図書館の貧弱なシステムの仕様です。こんな貧弱なWebシステム、見たことがありません。開発元は三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)社です。
この件については、セキュリティ専門家の意見も「明らかにMDISのソフトウェアの脆弱性に問題あり」ということで一致しています。つまり、図書館側に問題があるということです。余談ですが、朝日新聞は、ネット上でも高名な高木浩光氏のところに直接解析依頼を出したそうで、高木氏のウェブ上がとても賑わってました。
今回の件で私が最も問題だと思っているのは、図書館システムの脆弱性でも、警察のIT音痴っぷりでもなく、MDIS社の情報共有の姿勢です。
asahi.comの同記事で次のようなことが分かっています。
『朝日新聞が確認したところ、図書館ホームページの閲覧障害は、ほかに大阪府貝塚市、広島県府中市、東京都中野区、神奈川県鎌倉市、京都府長岡京市、石川県加賀市でも起きていた。MDISは「改善の余地がある」として7月、電算処理を毎回切るように岡崎のソフトを改修。全国約30の図書館で順次作業を進めている。』
つまり、MDIS社はこの不具合を予め知っていたわけです。
にもかかわらず、今回の事件では、当初図書館側に対して、「10分間で1000アクセス以上もしてくるような相手に非があって、自分たちのシステムに問題はありません」というような姿勢で臨んでいたように思えます。そうでなければ、冒頭の男性の逮捕劇などあり得るわけがありません。
※図書館職員の方は製造元のMDIS社に問い合わせているはずです
このちぐはぐさはどこから来ているのでしょう。岡崎市立図書館のMDIS担当者に上記の情報が行き届いていなかったから、このような事態になってしまったのでしょうか。
もしそうだとすると、MDIS社のCMMIレベル5の看板にキズが付きますね。
同社は2006年3月にCMMIレベル5を取得し、継続的なプロセス改善が行われている企業として認定されていますが、このレベルの企業であれば、自発的にシステムの不具合(リスク)を調査するような取り組みが行われていて然るべきです。
「MDIS社のプロセス改善活動への取り組み:CMMIレベル5を達成」
http://www.mdis.co.jp/company/csr/process.html
今回の場合、他の図書館システムで次々に同様の事象が発生していた最中の出来事であり、このような重要な不具合情報を類似システムの現場担当者が知りませんでした、というのはちょっとお粗末すぎませんか?
一人の人間を20日も勾留させた原因を作ったのですから、MDIS社は説明責任を果たす必要があると思います。
posted by 吉澤準特 at 00:08
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