日本人は比較的酒に弱い民族だと言われていますが、それでも年に数回、人によっては月に数回〜週に数回の頻度で飲酒をしています。適度な酒は心理的なリラックス効果をもたらしますが、度を超えると意識が朦朧とし、自分が何をやったのかを思い出せない状態に陥ることでしょう。今回のエントリーは、そんな飲酒に伴うトラブルの話です。
セキュリティだのコンプライアンスだのが叫ばれるようになって久しく、情報に対する過剰な保護意識は既に世の中に蔓延しています。システム構築やコンサルティングの仕事はあらゆる業種を相手にして仕事をやっているため、金融業や官公庁を相手にした仕事では、特に厳重な情報保護ポリシーの遵守が求められます。
基本的に情報をプロジェクトルーム外に持ち出すことは禁止されているため、プロジェクトメンバーは仕事の持ち帰りが許されていません。
ですが、システムリリースやプロジェクト報告会といった絶対的な期日が定められたなかで、どうしてもプロジェクトルームだけでは仕事を終わらせることができない状況に迫られることもあることでしょう。
そんなときはどうするかというと、多くのプロジェクトでは上長やスーパーバイザーの許可をもらうことで、PCを外に持ち出せるようになります。これによって、週末の自宅でも仕事ができるようになります。
金曜にPCを持ち帰って、土日に作業し、月曜に持ってくるという流れはごく自然な成り行きで生じるわけですが、この流れに「金曜夜の飲み会」というイベントが加わると雲行きが怪しくなってくるのです。
たとえば、金曜夜に同僚と飲み会があるとしましょう。今は夕方18時。月曜までにやらなければならない仕事はまだ終わっていないけれども、あと5時間くらい作業すれば完了できそうだという状況なら、「仕事を持ち帰ろう」という気持ちにきっとなるのではないでしょうか。
当然、PCやプロジェクトの資料はカバンに入れて飲み会の場所へ向かいますよね。そしてほろ酔い気分でゴキゲンになるわけですが、ここで飲みすぎてしまった人は、イベントフラグが立ってしまうのです。
ベロンベロンに酩酊して飲み屋を離れ、意識が朦朧としつつも電車やタクシーで家になんとか辿り着き、ベッドに倒れこんだ後、土曜朝になってあなたはふと気付くことでしょう。
「PCを入れたカバンが無いっ!」
さて、ここで問題です。この後、あなたは一体何をするべきでしょうか?
#1. ただちに上司に電話で連絡し、PCを紛失したことを伝える。
#2. 今日一杯は自力でPCを捜し歩き、見つからなかったら上司に相談。
#3. 疲れているので週末は体を休め、月曜になったら上司に相談。
○#1を選んだ方
あなたの選択は正しいです。いつであろうと、無くなったことに気付いた時点で直ちに上司に連絡しなければいけません。その後、上司は社内の担当部署に非常連絡をするとともに、クライアントの担当者にも緊急の情報連絡をすることになります。酩酊でのPC紛失に情状酌量の余地はありませんが、初動が迅速であったことはマイナスにはなりません。
○#2を選んだ方
もしかしたら自分の記憶違いかもしれない。どこかに届けられていてすぐに見つかるかもしれない。そんな甘い期待をしたくなる気持ちもわかりますが、万一見つからなかった場合、クライアントからは「なぜすぐに報告しなかったのか!」と言われるでしょう。仮に見つかったとしても、タクシー会社や鉄道会社がカバンの中からクライアント名の記された資料を見つけて、直接クライアント先へ電話連絡してしまっていたら、「紛失したという事実を隠ぺいしようとした」とさらなる非難を受けます。
○#3を選んだ方
残念ながら、プロジェクトにおけるあなたの役割は終わりを迎えることになる可能性があります。#2の対応でさえ、クライアントからは「隠ぺい」との誹りを受ける可能性があるのに、週明けまで何の報告もしなかったのであれば、「注意力も無く誠実さにも欠ける人物はプロジェクトにいらない」とリリースされることになりかねません。もちろん、あなたの信用力はこれ以上ないくらいに暴落します。
事の顛末はPCを紛失した本人だけに限りません。プロジェクトリーダーとともに始末書を書く、原因分析と再発防止策を行う、防止策の実施に伴ってプロジェクト全体に余計な対応コスト(工数・費用)が発生する、など少し考えただけで大変な事後対応工数が予想できます。
「初犯なら情状酌量があるかも・・・」という考えも捨てた方がいいですね。自分にとっては初犯でも、他の人が以前に同様のことをやっていたら、会社としては2回目になりますし、もし初犯だったとしても、今後このクライアントに関わる人々に多大な迷惑をかけることになるのは疑いようもありません。
「仏の顔も3度まで」「スリーストライク」という言葉のとおり、クライアントによっては、こういった酩酊に伴うプロジェクト情報の紛失を3回繰り返したベンダーは出入り禁止(取引停止)に処することもあります。SIプロジェクトやコンサルティング業務など、出入り業者としてクライアント先で働くスタイルが一般化しているIT業界では、情報持ち出しに伴うリスクは近年本当に深刻になっているのです。
まさに「注意一秒、怪我一生」の言葉通り。仕事の資料を万一持ち歩くときには、「飲むなら持つな、持つなら飲むな」のスローガンを頭に思い浮かべて行動するべきですね。
posted by 吉澤準特 at 01:40
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