NTTデータといえば、日本を代表するSIerであり、売上高は2011年3月期で1兆1600億円を超える大企業です。製品を持たずにこの規模を誇っているのはスゴイことですよ。製品を若干抱えるSI主体の野村総研で売上3300億円、富士通のSI部門が8300億円(製品等含むと国内4兆5000億円)ですから、その巨大さがうかがい知れます。
このNTTデータ、国内SIerの頂点に立ち、抱える子会社も数多いことから、会社のロゴシンボルである月見団子のピラミッドは搾取構造を模しているとも、頂点の飛び抜けた○こそがNTTデータ自身だとも皮肉られていたのはIT業界のお約束でもありましたが、ついに企業ロゴシンボルが一新されることになりました。これは、同社が2012年1月からアメリカ地域のグループ会社(Keane、Intelligroup、MISI、Revere、NTT DATA Agile Net、Vertex)を順次統合・再編するからだとのこと。
以下、CNET Japanから引用です。
『2012年1月に「NTT DATA, Inc.」を発足させ、順次米州地域のグループ各社を同社に統合させていき、米州地域では「NTT DATAブランド」で事業展開していく。統合後は1万6000人規模の体制で、顧客に対してインド、カナダのリソースを活用したアプリケーション開発や運用、ERPパッケージ、インフラサービス、BPOなどのサービスからITコンサルティング、スタッフィング、ウェブ開発までを総合的に提供する。
また、今後2012年以降はEMEA(欧州、中東、アフリカ地域)、APAC(アジア、太平洋地域)、中国地域においても順次グループ会社の統合や再編を進める予定だ。NTTデータグループは、一段の成長に向けてグローバル戦略を推し進めており、現在では5万7200人の社員の半数近くの2万6500人が海外拠点で働いているという。
(中略)
さらに、こうしたグローバルな再編を象徴するように、1988年の設立以来23年以上にわたって使用してきたコーポレートロゴデザインも変更する。』
http://japan.cnet.com/news/business/35011686/
NTTデータは23年前に設立された会社なんですよね。もともとは日本電信電話公社(後のNTT)のデータ通信本部として設立された組織であり、1988年に分離独立しています。NTTデータが手がけていた当初案件はこんなものがありました。
全国地方銀行協会システム(ACS、1968年稼動開始)
全国銀行データ通信システム(全銀システム、1973年稼動開始)
気象庁地域気象観測データ通信システム(アメダス、1974年稼動開始)
郵便貯金システム(1978年稼動開始)
社会保険システム(1980年稼動開始)
共同利用型クレジットオンラインシステム(CAFIS、1984年稼動開始)
都銀キャッシュサービス(BANCS、1984年稼動開始)等
こうした会社が、気づいたら社員の半数が海外にいるというグローバルカンパニーになっていたというのは感慨深いです。
話を戻しますが、現在のNTTデータのロゴシンボルは、ITカースト制度を表したものだとも、少し離れた頂点の○がNTTデータを示し、2段目はNTTデータ子会社、3段目は他社の中堅下請け、4段目はさらに小さなソフトウェア会社の下請けを意味する、なんて解釈がされていたりもして、IT業界の住人にとってはいい酒の肴だったのですけど、それがなくなってしまうのは寂しいですね。
____0 ←元請け:NTTデータ本体(例:1億でカスタム開発受注)
___0 0 ←1次下請け:子会社(元請けから6000万円で受注)
__0 0 0 ←2次下請け:他社(1次下請けから4000万円で受注)
_0 0 0 0 ←3次以降:中小ベンダ(2次下請けから3000万で受注)
IT業界の多重請負は社会的な問題にもなっていますが、これは、官公庁や大手企業のプロジェクトでは月当たりで100人以上を投入するものも珍しくないことと、それだけの大人数を1社で賄うことが難しいという人の調達問題が主な原因です。
例えば、「今月リリースされる人員は100人だが、開発案件受注が好調で来月必要になる人員は150人が必要になる」というケースでは、来月に50人のリソースが純粋に不足しますよね。この50人を手っ取り早く賄うのが、2次請け以降の下請けベンダーなのです。この仕組みが多重請負による不適切な指示系統と仲介ベンダーによる鞘抜き問題を引き起こすのですが、ITバブルまで右肩上がりで急拡大をしてきたプライムベンダー(1次請け)にとって、この構造がなければ、プロジェクトを仕切ることができる人材を確保しつつも大量の案件を捌くことができなかったと思います。
参考として、Tech総研に元請けと下請けの給与格差に触れた表から内容を抜粋します。
http://rikunabi-next.yahoo.co.jp/tech/docs/ct_s03600.jsp?p=000962
・元請け:(プライムベンダー)
→ 20代後半 年収500万円くらい
→ 30代後半 年収690万円くらい
・1次下請け:
→ 20代後半 年収460万円くらい
→ 30代後半 年収650万円くらい
・2次下請け:
→ 20代後半 年収440万円くらい
→ 30代後半 年収560万円くらい
・3次下請け:
→ 20代後半 年収410万円くらい
→ 30代後半 年収550万円くらい
見ての通り、プライムベンダーと比較すると、1次請け以降は収入面で開きが出ています。特に管理職となった以降の30代後半では、プライムと3次下請けの年収が3割程度も差が開くという状況です。それだけ、プライムベンダーの利益率は高いということなんですよね。
プライムベンダーは、受注するまでの営業力/受注した後の実行力の双方が問われます。特に後者は、プロジェクト全体を俯瞰しながらクライアントの要件をまとめて各種作業の頭出しをしていくことが求められるため、システムそのものを実装する力(プログラム開発やパッケージ製品の設定作業)とは問われる能力が異なり、それゆえ、下請けの仕事ばかりを引き受けてしまうベンダーは、プライムベンダーに必要な能力を確保し続けることが難しいという事情もあり、先に示した給与格差はなかなか埋まりません。
なお、経産省が調査した「特定サービス産業実態調査」からローランド・ベルガーが作成した日本のIT業界の概要が、ITmediaにて次のように紹介されていました。
____0 ←(1)超大手プライムベンダー:5社
___0 0 ←(2)1次下請けorプライムベンダー:6社
__0 0 0 ←(3)1〜2次下請け:150社
_0 0 0 0 ←さらに下請け:13000社
(1)富士通、NEC、日立、IBM、NTTデータ
(2)NRI、UNISYS、ITホールディングス等 売上3000億円以上
(3)大手グループ会社や中堅IT会社 売上100億円以上
分り易すぎる構図です。特に超大手プライムベンダーに位置づけられているのは、いわゆるメインフレーマーというメインフレーム開発運用を手がけるベンダー各社であり、メインフレームを1つ納品すれば、初期投資で100億円、その後の保守メンテナンスで毎年数十億円の売上が見込める世界です。
一方、オープンアーキテクチャによる案件も多数かつ絶対金額も大きいため、全体的に見れば、(1)と(2)で能力の差があるわけではありません。展開しているクライアント企業への面の広さが売上差の違いだと理解しておけばよいでしょう。
NTTデータのような個性的なロゴシンボルが消えてしまうのは残念ですが、新しいステージに向けてどんな動きをするのか、今後の同社の動きに注目したいと思います。