「たった45分で340億円を溶かしてしまった!」
なんの冗談なのかと首を傾げる人もいるかもしれません。賭博黙示録カイジでもあり得ないほどの負けっぷりですが、実はこれ、8月1日にニューヨーク証券取引所で起きてしまった株式誤発注である証券仲介会社が被った損失額なのです。
『1日の米株式市場ではニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場する約150銘柄が異常な値動きを示すトラブルが起きた。(米証券仲介大手)ナイトキャピタルグループは2日の声明で、自社の誤発注が原因だったと認めた。代償は大きい。誤った取引をすべて解消し、ナイトには4億4000万ドル(約340億円)の損失が残った。同社の株価は2日までの2日間で約75%も急落。同社は資金繰りの交渉とともに身売りも検討している。株価の異常な値動きは取引開始の1日午前9時半から45分間に起きた。市場関係者はこのわずかな時間に、ナイトの高速の自動売買が会社の存続を危うくするほどの損失を出した事実に衝撃を受けている。』
(8/4 日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXNZO44545700U2A800C1FF2000/
先日のエントリーで、世界中の証券取引所ではシステムによる高速自動売買が主流になっていることをお伝えしました。米国だけで言えば、実に全体取引の5割が高速自動売買によるものです。
後述のリンク先に書きましたが、主な取引所における1取引あたりに要する時間は1000分の1秒を既に下回っています。1秒間で1000を優に超える売買が行えるわけです。
●東京証券取引所 :1000分の0.9秒 (900マイクロ秒)
●ロンドン証券取引所 :1000分の0.125秒(125マイクロ秒)
●ニューヨーク証券取引所 :1000分の0.300秒(300マイクロ秒)
●シンガポール証券取引所 :1000分の0.074秒(74マイクロ秒)
「処理能力が2倍になったのにまだ遅い東証システム」
http://it-ura.seesaa.net/article/284835448.html
最初に取り上げたナイト社はニューヨーク証券取引所に接続していたのですから、理論上では、3333回/秒×60秒×45分=約900万回の取引を行った可能性があります。損失は340億円ですから単純計算で、1取引あたり3800円の損失を出した計算になります。
1取引で換算すると大したことがないように見えるのですが、アルゴリズムによる自動取引では累積損失があっという間に積み重なってしまいました。
残念ながら、現在の証券取引所システムが備えている緊急用の取引中断機能「サーキットブレーカー」ではこのような事象を完全に防ぐことはできません。しかし、すでに主要な取引手法になってしまったアルゴリズム取引が引き起こす今回のような事件は経済的に大変重大なネガティブ影響を及ぼすため、相場から逸脱した取引が殺到した場合、アルゴリズム取引による売買を一時的に停止させる安全機能を追加実装することが絶対に必要です。
先の日本経済新聞の記事では、米規制当局のコメントとして、「大量の誤発注を防ぐため、将来は1件当たりの注文量を制限する規制が適用されるとの観測もくすぶる」という意見を紹介していますが、取引量が抑制されることになるため、世界中の証券業界で減収減益となってリストラの嵐が吹き荒れることも予想されます。
この事件を受けて、日本でも金融庁が何らかの指導ガイドラインを発表するかもしれませんね。関係者の人は当局の姿勢を注視しておいた方がいいと思います。
posted by 吉澤準特 at 00:58
|
Comment(0)
|
TrackBack(0)
|
業界裏話