以前、「デビルズ・アドボケイト」という言葉をブログで取り上げました。
http://it-ura.seesaa.net/article/14400485.html
デビルズ・アドボケイトとは、わざと相手の意見に反論し、議論を盛り上げ活発にする目的で用いられる手法であり、討論では一般的に用いられるスタイルです。よく「朝まで生テレビ」で、田原総一郎がコメンテーターの真意を引き出すために、わざと喧嘩口調で反論をぶつけていますが、あれこそ、まさにデビルズ・アドボケイトです。
たとえば、システム開発のテストコンディションを考える際に、次のような視点で自問自答する、もしくは設計チームが作成したものをレビューするのもデビルズ・アドボケイトの視点が活かされます。
「この機能が無かった本当に業務は回らないのか?」
「こんな不正データを流したら、データが流出するのではないか?」
「不正操作でシステムを停止させることができるのではないか?」
相手から意見を引き出すことが上手な人は、デビルズ・アドボケイトに長けています。「敢えて言わせてもらうなら〜」などの切り口で根本的なテーマを話題にすることは、クリティカルシンキングができているからこそです。
クリティカルシンキングは、状況を掘り下げて、「なぜそうなのか?」「本当に正しいのか」を問い続けることから、批判的思考・探求思考と呼ばれることもあります。次の例を考えてみましょう。
『何年も業績が低迷していた同業のA社は、インド進出を機に売上が右肩上がりで増収増益となっている。一方で、わが社は長期にわたって売上が低下しており、収益も減少している。この状況を打開するには、わが社もインドに進出するべきだ。』
この意見は、「似たような境遇にあったA社が増収増益なのはインド進出をしたから」であり、「増収増益となっている」状況に至ったと述べています。だから、わが社もインドに進出すれば同じ結果を得られる、という論理です。
しかし、よく考えてみると、インド進出の時期から業績が上向き始めたと言っているだけで、インド進出自体にその理由があるとは捉えるのは論理の飛躍です。単に、インド進出と時期を同じくして商品開発やマーケティング上の大成功があっただけかもしれません。
売上増に伴ってA社がやってきたことをすべて検証できれば、より確実な原因を探り当てることができます。一方で、すべてを検証すると時間がいくらあっても足りません。分析作業に膨大な時間を費やして実行着手のタイミングが遅すぎないことを意識することが、クリティカルシンキングでは重要です。
話を戻しましょう。
民主党政権の頃、事業仕分けでスパコン事業に対して蓮舫議員が、「2位ではダメなんでしょうか?」と発言して物議をかもしだしたことがありましたが、これもデビルズ・アドボケイトです。蓮舫議員の真意は、2位ではダメだという強い意見を相手から引き出して、だからスパコン事業の予算はできるだけ削らない方向に持っていこうというところになりました。その意図は国民には伝わらず、マスコミからバッシングを受けまくっていましたけどね。
つまり、デビルズ・アドボケイトは使いどころを間違えると、自分が火だるまになるというリスクを抱えているのです。ですから、自分の発言を評価するステークホルダーのうち、何割かにはあらかじめその意図を共有し、自分の味方になってもらわなければなりません。
さもなければ、「この人は皮肉ばかり口にするイヤな人だ」とのレッテルを貼られて、周りからネガティブな目線で見られるようになってしまいます。これでは議論を活発にするどころか、そもそもまともな議論をしてもらえなくなるでしょう。
デビルズ・アドボケイトを使う際には、発言の前に意図をはっきりと説明することをお勧めします。
posted by 吉澤準特 at 11:25
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