BtoCのような少額決済ではクレジットカードの利用が多いですが、BtoBで行われる数百万円以上の取引規模では自分の口座から相手の口座へ直接振込をする方が一般的です。そうなると銀行と銀行の間で膨大なお金のやり取り(通信トランザクション)が発生するのですが、そうした重要なトランザクションを安定的に提供するために生み出されたのが、内国為替取引というITシステムの仕組みです。
詳しい仕組みは以下のリンクにある全銀システムの仕組みを参照してください。
・全国銀行内国為替制度とは何ですか? 全銀ネット、全銀システムとは何ですか?
https://www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/kess/i21.htm/
・内国為替取引
http://www.zengin-net.jp/zengin_net/domestic_exchange/
『決済の方法は、現金を支払うことが一般的ですが、決済の額が高額になると、現金の持ち運びに伴う盗難や紛失の危険が高まり、時間や経費もかかります。これに対して、離れた場所の間で直接に現金を送ることなく資金の受け渡しを行う方法が「為替取引」です。為替取引は現金を用いないので、安全かつ迅速な決済が可能です。』
なかでも、1億円を超える規模の取引というのは、大口内国為替取引と言われており、日本銀行のRTGS(Real-time Gross Settlement 即時グロス決済)いうシステムで実現しているのですが、このシステムが実は危機的状況を迎えています。
日経新聞の報道を確認しながら解説していきましょう。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFJ26001_W3A920C1000000/
『銀行口座間で決済する大口内国為替取引で、取引件数がシステムの容量を上回る恐れがあることが明らかになった。
最初に触れたように、大口内国為替取引は企業間の1億円以上の決済で使われているものなので、このシステムにトラブルが生じると、日本国内の大手企業はほぼすべてがお金の支払いや受取りができなくなります。
この報道は、2013年9月末の時点でその機能に不具合が出て異常事態になるかもしれないという話です。具体的には以下の不具合が発生します。
『仮に大口取引件数がシステムの処理能力を上回った場合、超過した分の処理依頼内容などを記した電文が異常終了となり、電文を送った銀行に通知されることなく電文が破棄される。そうした事態が起きれば、同システムで送られる資金をあてにしていた企業が支払いができず、最悪の場合、支払い不能が連鎖する混乱が予想され、いわゆる金融システミックリスクが顕在化しかねない。』
金融システムを触ったことがあるなら分かるかもしれませんが、さらっと恐ろしいことが述べられていますね。要は、お金を支払ったはずなのに相手には届かないということです。
これは大変まずい状況なので、大口内国為替取引の業務を運営している全銀システム側では「処理件数の監視を強化し、処理件数が上限に近づいた場合は大口内国為替の基準を段階的に引き上げて大口用システムでの処理増を防ぐ」という対応をしようとしています。
しかし、その対応をするには予定済みのシステム増強計画を前倒したとしても2014年3月までは着手できなさそうだということが分かっています。そのため、苦肉の策として、「参加銀行に対し、顧客への取引日の前倒しの呼び掛けや、別の手段での決済を求めて」いくという暫定対応を余儀なくされているのが現状というわけです。
ITシステムにおいて、処理キャパシティのトレンド分析は必須業務のはずですが、全銀システムの大口内国為替取引を支えるRTGSでは、なぜかそれが行われていなかったように思える記載が先の日経新聞にはありました。
『2013年3月のピーク日の大口取引件数が処理能力の85%を超えたため、システムの能力増強に取り組み、2014年3月に処理能力を引き上げる予定だとしている。しかし2012年3月末の大口決済は5万874件と処理能力の84.8%に達しており、その段階から取り組んでいれば、事実上の決済抑制を依頼するような事態にはならなかったとみられる。』
判断するのに1年遅れてしまったのでは?と疑義を投げかけている内容です。
ですが、私としては、「これって結果論にすぎないのではないか?」と思ってしまうんですよね。2012年3月末時点では民主党政権の下で経済政策がすすめられており、
・急激な取引増なんてとても想像できなかったから使用率85%で様子見
※処理能力増は高額費用が発生するため、民主党下では許可が下りない可能性を考慮
・しばらく様子見をすることにしたが、その後も処理能力は85%前後とほぼ横ばい
・しかし、2012年冬にアベノミクスが始まり、今後の取引増が現実的になった
という事情を考えれば、2013年3月での判断というのも仕方ないのではないかと思ってしまいますよね。おまけに、RTGSでの大口内国為替の取引件数は、2011年11月時点でおよそ4万件とあり、処理能力は70%以下で済んでいることが日銀の資料から分かります。
・次期RTGS対応(第2期対応)の稼働開始
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2011/data/rel111222a3.pdf
平均処理性能が70%以下、ピーク時が85%のシステム、加えて今後のトランザクション急激増は考えにくいというデータが揃っていれば、システム増強の判断は先送りをせざるを得なかったのではないかと思います。
日本の、特に官公庁系システムでは、業務要件を過大に見積もって(過剰なバッファを設けて)ITシステムに投資をしてきました。その反省を活かして、昨今の投資案件はカツカツな処理性能になっているケースも出てきていますが、今回の大口内国為替処理については、それが裏目に出てしまったというところではないかと推測する次第です。
中の方々、マスコミの厳しい論調に負けないで頑張ってください。
posted by 吉澤準特 at 07:04
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