久々に大炎上の可能性を秘めたIT業界クラスタの記事を目にしました。
これは以前、「入社して最初の10年は泥のように働いてもらい、次の10年は徹底的に勉強してもらう」というプライムベンダーならではの上から目線で学生から不評を買った、IPAのカンファレンスで理事長の口から飛び出した迷言に匹敵するかもしれません。
10年働くソルジャーが欲しい重鎮のホンネ(2008年6月)
http://it-ura.seesaa.net/article/99469095.html
どんな飛ばしたエントリーかと言いますと、それはWindowsXPのサポート切れ問題を取り上げたものです。聞いたことがあると思いますが、
同製品は2001年にマイクロソフト社からリリースされたOSです。非常に優れた製品であったこと、後続のOS(Vista)の使い勝手が悪かったこともあって、発売から13年が経とうとしているのに、まだ様々な企業で利用され続けています。しかし、そのサポート(一部組み込みを除く)を2014年に打ち切るとマイクロソフトが宣言していることで、新しいOS(Windows7、Windows8.1)を搭載したPCに買い替えなければならないという状況にあります。
詳しい背景はITmediaの記事が詳しいので抜粋します。
「すでに最大で12年半ほど稼働しているOSだ。ドッグイヤーといわれるITの世界での12年という寿命は驚くべき長さだというのが筆者の感想だ。問題なく動いているようであっても、内部で使われている技術はすでに時代遅れのものとなってしまっているものも少なくはなく、現在のトレンドにそぐわない状態にある。
(中略)
サポートが終了したバージョンでは、原則としてセキュリティ対策は行われない。Windows XPについては2014年4月9日(日本時間)が最終日ということになり、この後に発見された不具合や脆弱性を攻撃者側に突かれると、システム的に防御が難しく、攻撃に対して無力になる。Windows XPにもまだ何らかの不具合が内包されている可能性は高く、また技術の進歩により当時は思いもしなかった新たな手段による攻撃もありえる。ファイアウォールなどで対応できる程度であればよいが、攻撃者としてもそんな部分は想定済みと思われる。
住宅で例えると崩れそうだけど改修しません/できませんという状態、自家用車では自賠責保険切れで走ることに例えられる。自分以外に、他人にも影響を及ぼす可能性があるわけだ。」
(そもそもWindows XPはなぜサポートを終了するの?)
http://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1402/18/news056.html
要するに、XPは市場への影響を考えて特別扱いされてきた製品であったが、これ以上新しい技術に対応することが難しくなってきたため、捨てざるを得なくなったということです。IT業界にいると、これくらいの話は一般教養のごとく理解されている話なのですが、一利用者の視点からすると違った見方をされてしまうことがあります。冒頭で触れた炎上記事がそれです。
その炎上記事はZDnetに掲載されています。
「セキュリティベンダー主要各社の代表も登壇してWindows XPのセキュリティリスクと新しいOSへの移行を訴えていたが、中には「サポート終了の話は何年も前から告知されてきたことなので、4月になって間に合わないというのは怠慢だ」とのコメントもあった。
「怠慢」との表現はいかがなものか。確かに、以前から告知されてきたにもかかわらず、無関心なままのユーザーもいるかもしれないが、企業の中にはWindows XP上で利用している特殊なアプリケーションソフトが移行できなくて困っているケースも少なくない。
(中略)
そんな企業からは、「もともと誰が提供したものなのか。今回の移行に伴ってIT業界が潤う一方で、われわれが苦しい状況に追いやられるのはどうも納得がいかない」との恨み節さえ聞こえてくる。
(中略)
日本マイクロソフトは、4月までに国内で使用されているPCの1割までWindows XPの構成比を引き下げたい構えだ。逆に言うと、少なくとも1割は残る。その1割のユーザーに対するケアは、IT業界の責任でもある。」
(Windows XPサポート終了におけるIT業界の責任)
http://japan.zdnet.com/cio/sp_13matsuokaopinion/35044036/
この記事に対して2つ考えておきたいことがあります。
・ソフトウェアが数年に一度の入替を要することをユーザーは無視して良いのか?
・一度作ったものはユーザーがゼロになるまでケアし続けるという発想は必要か?
1点目について、これを許してしまうとソフトウェアライセンス契約の債務不履行を認めてしまうことになりますし、ITを利用する人たち全体の利益を損なうことになります。その理由はこのエントリーの前半で挙げたITmedia記事の「住宅で例えると崩れそうだけど改修しません/できませんという状態」という内容が該当します。
住宅には施工事業者が10年保証などを掲げ、それ以降に発覚した瑕疵への責任は基本的に負いませんね。もちろん道義的な責任を取って居住者への補償を行うこともあります。今回のWindowsXPのサポート打ち切りに際しては、2年以上前からPCのリプレースをマイクロソフトが訴えていましたし、関連するベンダーもクライアントへ提案していたでしょう。
そもそもソフトウェアの定期的な入れ替えは、アプリケーションの導入時にベンダーから説明があったはずですが、それを無視して使い続けるユーザーを許容してしまえば、法治ではなく人治に基づく非合理的な社会になってしまいます。
※もしその説明を怠っていたベンダーがいるなら、一定の責任を負う必要はあるでしょう。
2点目について、ユーザーがゼロ(極小)になるまでケアし続けるという発想は製造業で見られる話ではあります。30年前の石油ファンヒーターがリコールでCMを流しているのを見ることもありますね。
ですが、こうした公知が必要なリコールは人命に影響するレベルで採られる策であって、利用者の経済的な問題レベルで行われることはないでしょう。いわんや、クライアントPCのOSサポートが製造業のリコールと同じ扱いであるとは思えません。
もっと基本的な話として、生産中止(ディスコン宣言)された製品の部品を一定期間保持することは製造業で求められることですが、WindowsXPのサポート打ち切りについても相当前から周知がされていました。
以上のことから、ZDnetにある煽り記事は根拠不十分で、一方からの勝手な物言いであるように私には感じられました。Twitterのタイムラインを見る限りでも、私と同じ感想を持たれている方は多いように見えます。
ITベンダー側へ文句をつけることは簡単ですが、するにしてもある程度の合理性を踏まえてほしいと感じた次第です。
posted by 吉澤準特 at 17:27
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