「Bさん、1ヶ月前に頼んだシステム監視製品の比較検討資料、金曜の会議で使いたいんだけど、もうできた?」
「えっと、とりあえず使えそうな製品をいくつか調べてるんですけどまだ整理できてないです。」
「まだ調べ終わってないのか?単純に製品情報をベンダーから貰ってまとめるだけだろ?」
「そうなんですけど、回答に1週間くらいかかるってベンダーの人に言われまして・・・」
「それくらい普通だよ。1ヶ月もあったのだから別に問題ないだろう。」
「すぐに回答してもらえると思ってしばらくベンダーに連絡取ってなくて、昨日頼んだらそう言われたんですよ。」
「問い合わせ先の目星がついた時点でさっさと連絡しておけって!まったく・・・それで、比較する観点ぐらいはもう出来上がってるよね?」
「そうなんですけど、どういった観点でまとめたらいいのか決まらなくて・・・」
「それで1ヶ月進捗がないって、おまえはアホか!次の会議に間に合わないぞ!」
さすがにここまで極端に叱られることは少ないかもしれませんが、仕事の進め方が悪くて上司から何らかの指導を受けた経験を持つ方は多いと思います。事前に決めた期限に成果物が間に合わなかった場合、何らかの影響が周囲に及ぶのは必定であり、叱られるのも当然ですよね。
ファシリテーションとは会議をスムーズに進めるだけでなく、仕事の段取りそのものを効率的にする術ですから、こういった場面がそもそも生じないようにする方法も考えるのもファシリテーションです。前回はコンテクストの観点から資料の作り方やパワーポイント道の守・破・離を説明しましたが、今回は効率性の観点で話をしたいと思います。
上記の例は、私が以前に参画したプロジェクトのシステム基盤チームで繰り広げられていたワンシーンです。このプロジェクトでは基幹システムの刷新に合わせてシステムインフラの見直しも行っており、システム監視の機能を持つ複数製品を調べて一番良さそうなものを導入しようと取り組んでいる最中でした。
システム監視製品には、JP1(日立)、Tivoli(IBM)、SystemWalker(富士通)など多くのベンダーから様々な製品が発表されており、ニーズに合致する製品を絞り込んでいくのは意外に骨の折れる仕事です。普通は代表的な製品を提供しているベンダーさんや取扱代理店から基本的な製品情報を提供してもらい、ある程度情報を集めたら評価を行うという流れですから、製品決定には3週間〜4週間をかけることになります。しかし、製品情報を集めて比較検討の材料となる資料を作る程度なら2週間もあれば十分でしょう。
予定工数が2週間の作業に1ヶ月も手間をかけていてはA課長が怒鳴りだすのも当然です。まずBさんは自分の作業の進め方について効率的に進めるための改善に取り組まなければなりません。
ここでもうひとつ見落としてはならない重要なポイントがあります。怒鳴られた原因はBさんの仕事の遅さによるものですが、その根本原因となったのは報告・連絡・相談(ほうれんそう)の不足でした。Bさんの仕事が遅かったとしても、作業開始から2週間たった時点でA課長に状況を報告し、ベンダーへの連絡も速やかに行い、悩んでいるポイントをA課長と共有できていればもっと早く作業を終えることもできたでしょう。
仕事を効率的に進めるためには2つの側面に着目することが重要です。前述の例では、「A課長やベンダーへの適切な報告・連絡・相談」そして「Bさん自身の作業」が該当するのですが、これをもう少し一般的な表現に改めると次のようになります。
・人の知恵を借りる作業
・自分で考える作業
1点目の「人の知恵を借りる作業」というのは、自分自身が経験したことがない、もしくは経験が浅い領域に取り組まなければならない際に、別の経験豊富な人にアドバイスを求めたり資料を提供してもらうことで進めるものを指します。
知らないことでも知っている人に頼ればあっという間に済んでしまうというのはよくある話です。料理に詳しくない人が料理をしようとすれば、まずは母親や奥さんなど料理に詳しい人に相談するでしょうし、インターネットを使い慣れた人ならば、YahooやGoogleでレシピを調べたり、Yahoo知恵袋やはてななど人力検索サイトや2ちゃんねるのような大規模掲示板で質問するかもしれません。”料理に詳しい人の知恵を借りて”自分で料理できるだけの情報を仕入れているのです。
2点目の「自分で考える作業」というのは、前述の1点目を利用して作業の段取りを考える行為です。厳密に言えば、どういった情報を集めてくるかは自分自身で考えることですが、単純化して話をするためにこのように定義します。
さきほどの料理の例にあてはめてみましょう。他の人に教えてもらったレシピをもとに何の食材が必要かは分かりました。次はその食材をどの店で買ってくるのかを考える必要があります。駅前の商店街で買うべきか、それともセールをやっている隣町のスーパーまで足を伸ばすか、はたまた一部の食材は好みではないから買うのをやめるか。すべて”自分自身が考える”ことで決めることです。
1点目は効率的な調べ方を知っていれば作業時間を短縮できますし、2点目は論点を整理する考え方を身に付けていれば素早く決断を下すことができます。しかし、前者はやり方を知っていれば実現できますが、後者は一朝一夕に身に着けることは難しいでしょう。野球やゴルフのフォーム練習と一緒で、思考アプローチが頭に染み付くぐらい何度も繰り返して実践で経験する必要があります。ゆえに、2点目の「自分で考える作業」を効率的に進める努力は地道に続けるとして、まずは1点目の「人の知恵を借りる作業」で作業時間の短縮を目指すことを優先しましょう。
各作業の進め方のコツはこちらで詳しく説明しています。
(EnterpriseZine寄稿記事)
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