前回、『世界最大のコンサル会社が最低の仕事をする理由』というエントリーで、小さい規模で機能していた優れたアプローチを大規模な形にスケールさせることで硬直化してしまうという話をしました。
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http://it-ura.seesaa.net/article/114822601.htmlどんなに優れた人材や組織であっても規模の拡大によって生じる品質の低下(劣化)を生じてしまうということなのですが、10人や20人くらいの組織であれば個々人の連携によってそれなりのパフォーマンスは期待できます。
「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。有るとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ。」
と言ったのは攻殻機動隊の荒巻さんですが、では、一体何人を超えると組織のチームワークを期待することが難しくなってくるのでしょうか?
これについて、とても興味深い数字を発見しました。それはダンバー数です。
霊長類学者のロバート・ダンバー氏は、大脳新皮質の大きさと群れの大きさの関係について相関関係を調査した結果、「人間が形成できる群れの大きさ」を算出しています。
人間の場合、所属する組織やコミュニティが150人を超えると、お互いを明確に識別しあうことが難しくなるため、組織としてのパフォーマンスが悪化し、生き残ることが困難になってくるそうで、事実、世界各地の狩猟民族は平均すると150人前後(130人〜250人の平均)に落ち着くとのこと。
これを組織論に当てはめて論じると、社員同士が意識し合える部門内の人数は150人を超えないことが望ましい、という結論を導くことができます。
ダンバーの150人理論について、松村崇さんがうまくまとめているので引用します。
『ダンバーは150人以下であれば、規範やルールがなくても同じ目標を達成することができ、これが最大効果を生む組織の適正規模だと主張している。逆に 150人をわずかに超えてしまっただけで、分派行動が生まれ、互いがギクシャクしはじめて疎遠になって、各人のベクトルが分散してしまうということだ。
この150人の法則を取り入れて成長した企業が防水繊維で有名なゴアテックスを生み出したゴア・アソシエイツだ。この企業は、規範とか肩書きというものを持たず、あたかもアメーバのように自然体の組織を実現してきた。工場の敷地の駐車場を150用意し、そこからあふれ出る車がちらほら出始めると、工場を分割して、常に150人より小さい組織を維持しながら成長していったのである。
小集団のなかで形式ばらない顔の見える人間関係が効果的に機能するためには、150人を超えたら分割し、常に150人より小さい組織を維持することが大切なようだ。会社組織のみならず、特に教育現場においても、1学年の人数が150人を超えてしまうと、生徒同士はギクシャクしはじめ、まとまりがつかなくなり、分派行動や問題が増加するともいえる。』
(詳細はこちらから)
→ http://it-ura.seesaa.net/article/115009549.html
この理論を意識して組織を構成している企業は多いようで、事業規模をうまく拡大している企業の多くは一部門の人数を150人以下に抑えるようにしていると聞いたことがあります。
しかし、これで話が終わってしまうと、組織は150人以上の単位でまとまることはできなくなってしまいますね。そこで登場するのが、前回のエントリーで触れた”方法論(メソドロジー)”というものです。
人間の集落を調査すると250人(子供を抜くと150人程度)以下と1000人以上のいずれかに識別できる、というのは中山心太さんの発表資料に書かれていたことですが、これはとても面白い考察だと思います。
(詳細はこちらから)
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http://it-ura.seesaa.net/article/115009549.html中山さんによれば、1000人以上のコミュニティに共通していたのは、宗教や儀礼のような共通のルールが発達したからであるとしていますが、これはそのまま企業のメソドロジーにも当てはまることではないでしょうか。
つまり、150人を超える組織をひとつのコミュニティとして発展させたいのであれば、そこに共通のメソドロジーが必要になるということです。それができない組織は人数の拡大とともにチームパフォーマンスの著しい劣化を招くことでしょう。
あなたの組織、どうなってますか?
posted by 吉澤準特 at 01:08
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業界裏話
みました。うちの会社は100人いないので
まだ、大丈夫。グループだとだいぶ超えてますが
事業部制をとっているので、
150人の法則にあてはまるのでしょうかね。
はてブにも書きましたが、この資料はセキュリティ系の学会の二次会用に一時間で書いたものであり、
集落の規模の話は歴史学を専攻している友人から聞いたものです。
そのため、リファレンスが無い状態ですので、注意してください。
ちょっと古いですが、mixiもダンバー数に当てはまるであろう統計データが出てるので、一応参考までに。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0509/14/news040.html
後それから、ダンバー数の大元の論文を張っておきます。
http://www.bbsonline.org/documents/a/00/00/05/65/bbs00000565-00/bbs.dunbar.html
「集団」=自分の所属する大切なもの となるが、
150人を超えると、その中に知らない人が出てきて、
「知らない人がいる集団」よりも、
「知らない人がいる集団 の中の自分の知ってるグループ」が大切になるのかなと思いました。
「急に売れ始めるにはワケがある」という本で、この話が詳しくされていますよ。
私はこの話は以前から知っていたのですが、先日書いたコンサル企業のエントリーに関係する内容だったので取り上げてみたところ、偶然にもエンゼルバンクという漫画で最近取り上げられたテーマだったようですね。
私が所属している組織は業界ごとにグループが分かれているのですが、規模が400人弱のグループは、そこからさらに3チームに分けていました。グループ全体としての統率は少し欠けていたかもしれませんが、チーム内では意思疎通がかなり図られていたので、こういったケースでも150人理論というのは概ね正しいと実感しています。
資料についてご指摘下さりありがとうございます。ダンバー博士の論文を直接全部読むのは時間が掛かりそうですけど興味深いので読んでみますね。
mixiの話も興味深いですね。一定規模まで数が増えるとそこから飛躍的に集団数が増加するというのは、はてなのブックマークにも当てはまることかもしれません。
まさにその通りですね。幼稚園から社会人まで徹頭徹尾、人間は自分が知っている&知られているコミュニティを求めており、マズローで言うところの”所属の欲求”と”承認の欲求”を与えてくれるところの目安の規模が150人というところなのでしょう。
教えて下さった書籍は後で目を通してみようと思います。