会議では、議論の落しどころとして、意見が対立する人々の妥結点を見出すことが重要になります。でも、
どうせならできるだけ有利な状態に持っていきたいですよね。
このとき役に立つのが交渉学のBATNA(バトナ)という考え方です。
BATNAとは、Best Alternative to a Negotiated Agreementの略で、
最初に提示した条件で交渉が決裂した時に採用する最も良い代替案という意味です。一言で表現するなら「次善の策」でしょうか。
交渉学では、相手のBATNAを知って対策を立てることで、BATNAを使えない、もしくは使っても意味が無い状況に持っていき、
自分を有利な立場に置くことを考えますが、
ファシリテーターにとっては意見が対立する人々の間を取り持って議論をまとめるためにBATNAを使います。
例えば、次のようなシチュエーションを考えてみましょう。
『営業部門のA課長はどうしても取りたい案件があり、開発部門で発言力の あるB主任に引き受けてもらいたかったが、B主任は、
この案件によって 開発部門の作業負荷が高まり、デスマーチになる可能性が高いと判断し、
3ヶ月の納期延長が認められなければ引き受けないと突きかえした。
B主任は、この案件を引き受けることは可能であったが、この案件がダメ になっても現在取り組んでいる別案件の仕事でしばらく忙しいので、
当面の仕事には困らないが、A課長が納期延長に1ヶ月でも応じてくれれば、引き受けても良いと考えていた。
一方のA課長は、B主任が納期の2ヶ月延長で妥協してくれるなら何とかクライアントを説得してみようと思っていたが、
どうしても3ヶ月延長を主張するなら、今回は案件を諦め、今後はB主任に仕事を回すのをやめようと考えていた。』
交渉が成立しなかった場合の選択肢がBATNAですから、このケースでA課長とB主任のBATNAを整理すると次のようになります。
A課長のBATNA:
「今回は案件を諦めるが、今後はB主任に仕事を回さない」
B主任のBATNA:
「今回は協力せず、別案件の仕事に集中する」
議論の落としどころを見つけるためには、双方のBATNAを無効化して議論のテーブルから逃げられないようにすることが重要です。
このケースでは、A課長とB主任のBATNAを無効化するならば、次のような状況に持っていく必要があります。
A課長のBATNAを無効化:
「今後もB主任に仕事を依頼せざるを得ない状況を作る」
B主任のBATNAを無効化:
「別案件の作業負荷を下げ、A課長の依頼を断る理由をなくす」
1つ目は、特定領域の開発は全てB主任が絡むようにするといった方法が考えられますし、2つ目は、
B主任と開発部門が担当する一部業務を別の人間に付け替えることで実現できるでしょう。
こういったアクションは事前に様々な調整が必要になりますから、それを根回しで対処するのです。
こうすると、A課長もB主任も議論から逃げる理由を失うので、あとはお互いが譲歩できる範囲で刷りあわせを行うことになります。
ここでZOPA(ゾーパ)というものを考慮します。
ZOPAとは、Zone Of Possibe Agreementの略で、交渉学では交渉可能価格帯という呼ばれているものですが、
ここでは「譲歩による合意が可能な範囲」と理解して下さい。
B主任は納期の延長が1ヶ月でも認められれば受注しても良いと考えていました。つまり、
B主任のZOPAは納期の1ヶ月以上の延長になるわけです。
一方、A課長は2ヶ月程度の延長ならクライアントに嫌な顔をされても何とか説得できると踏んでいたとしましょう。すなわち、
A課長のZOPAは納期の2ヶ月延長までです。
ということは、納期延長が1ヶ月以上2ヶ月以内であれば両者が合意できることが分かります。
一方で、A課長、B主任ともできるだけ良い条件を通したいとも思っています。このとき、自分のZOPAを相手に知られてしまえば、
相手は自身のZOPAと照らし合わせ、最も自分が利する選択肢を主張するでしょう。
事前にBATNAが潰されていれば、相手は交渉に応じざるを得ません。そうなると、無駄な駆け引きで会議の時間を浪費し、
時間切れに達しなければ結論が出ないという不毛な状況に陥ることもあり得ます。
もしファシリテーターが意見対立者それぞれのBATNAとZOPAを探り当てることができていれば、
皆が納得できる折衷案を速やかに合意することができるでしょう。
※詳細はEnterpriseZine連載の記事をご覧下さい。
http://enterprisezine.jp/article/detail/1417
posted by 吉澤準特 at 02:47
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