最近、私が関わっているプロジェクトではシステム開発ベンダーの選定とハードウェア、ソフトウェアの調達を行っているのですが、
某巨大SIerのあまりにもひどい金額の丸め方に辟易する日々を送っています。
基幹系システム、特にホスト絡みの調達を経験されている方は、その不透明な提案金額に苦労した経験をお持ちではないでしょうか。
今でこそオープン系の開発案件は透明度が増してきましたが、数年前はこれさえも不透明な金額で契約がなされていました。
このことを理解するのに最適な記事を4年前のCIOマガジンで見つけたので抜粋します。
『同社(ある大手製造業)は、コンサルティングからアプリケーション開発に至るまでの全工程を、大手ITベンダーに委託していた。
それまでのフェーズ(約1年間)で、同社は数千万円をそのベンダーに支払っていたのだが、
開発段階に入るに際して出された見積もりは十億円を上回る金額であった。この見積もりを承認し、発注を担当する購買部では、
この十数億円の妥当性に疑問を持ったのである。
しかし、システム開発の工数の妥当性も、SEの単価の相場も、
購買部では評価するすべがない。情報システム部に確認しても、それぐらいだと言われると返す言葉を持っていない。そのときに購買部が発した
「情報システム部は、まるでベンダーの手先のようだ」という衝撃的な言葉は、今でも耳から離れない。
かくして、開発フェーズの見積書を客観的に評価することと相成ったが、
購買部から見せてもらった見積書は、「システム詳細設計一括:○億円、ハードウェア一式:○億円……」といった様式の、
驚くほどずさんなものであった。』
(CIOマガジン:SIerを取り巻くこれだけの不満)
→ http://www.ciojp.com/contents/?id=00002477%3Bt=12
ひどいですよね。でも私が今出くわしている案件もこれと同じレベルです。
こんな見積りを押し通そうとしてくるベンダー担当者には参ってしまいますが、私の場合は幸い、
様々な指標や比較対象を手元に用意しているので、なんとか費用を分解して提示してもらえそうです。
しかし、そういったデータが手元に無く、ベンダーがもっともらしくプレゼンをしてしまえば、
調達にあまり詳しくない担当者は抵抗する術もなく言いくるめられてしまうことだと思います。
2009年現在であれば、オープン系システムの見積りに必要な客観的な指標はいろいろと公開されています。
CPUスペックや一般的な可用性ポイント、作業工数やその割合など、JUASを初めとするいくつかの機関を調べればすぐに分かります。
しかし、ホスト導入に関する客観的な指標というのは、開発生産の観点でファンクションポイントやライン当たりのステップ数、
MIPSなどを用いて比較することしかできません。こういったデータはなかなか一般公開されないことに加え、
基本的にホストシステムはオーダーメードが基本になりますから、それも当然だと言えましょう。
ベンダー側からすると、単価を開示することは企業競争上、譲歩できないポイントだと主張するところもあるかと思いますが、
一般的な単価が公開されているこのご時世では、いつまでもそういった秘密主義を続けていると、
競争力云々の前に顧客からの信頼を失うことになるでしょう。
はてなダイアリーではこのような指摘をしている方がいます。
(日本のIT業界はなぜ重層的な階層構造をとっているのか)
→ http://d.hatena.ne.jp/ktdisk/20090201/1233493964
競争原理と淘汰のメカニズムが十分に働いていない理由を簡単に紹介しておきます。
『結局のところ最終的にサービスを受ける企業側にきちんと下請けを評価する能力とノウハウがないことが一因としてあげられる。
担当者が無能とかそういう単純な議論ではなく、
流動性を保つためにそういうことができる機能を外だしせざるをえなかったというのが実情だろう。
(中略)
今親密に付き合っているパートナーと一緒に開拓するのではなく、
ターゲットとなる商圏で既に顧客とリレーションのできているパートナーを探すほうがパートナー戦略としては正しい、との話を聞いたが、
確かに日本において既存の取引関係を短期的な経済合理性だけで突き崩すのは難しい。』
たしかに過去の付き合いを重視するクライアントは多いですが、それを当たり前と思いすぎているベンダーは、この先、
生き残っていくことは難しいでしょうね。
ただし、国を商売相手にするなら、また別の話ですがね。
(皮肉です)
posted by 吉澤準特 at 02:47
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業界裏話
またまたご無沙汰しております。
この件ですが、自分もたぶん同じベンダーでこの見積りやられたことがあります。
6〜8年位前ですが、自分もCIO補佐としてベンダー見積りの正当性を評価したり、ROIの効果予測やそのシステム導入後の拡張性やメンテコストなどを同時に評価していました。
特にこのベンダーはそうなのですが、でかい案件をとるまではいいエンジニアやコンサルを付けて、案件獲得後は自分たちは矛盾を残した上流工程設計とハードウェアだけを残し、下請けに流してとんずら、というのが常套手段でした。
自分の知りうる限り、数社でこのようなことを行っており、ベンダー不信に陥ったCIOや情報部門の責任者が自分のような独立系の人間にベンダー監査や見積り監査を依頼してきたのかと思います。
契約でしばったり、工程ごとの監査、別会社と社内メンバーでPMOを作成するなど、多少追加のコストが発生しても監視する仕組みが必須という感じです。
それにしても、やはりまだやってるんですね。予想通りといえば予想通りですが。
またお会いしましょう。
(あちらでも書かせていただいた内容ではありますが)
…IT業界ではなく、SIerさんとかコンサルさんとか、そのあたりが「詐欺師集団」なのではないでしょうか? と、ふと思ってしまいました。
で…現状私が見聞きしている限り。正直、彼らの大半は、やはり「駄目」なんじゃないかと思ってます orz
http://d.hatena.ne.jp/gallu/20080923/p1
現場スキルと実装スキルがない人を、私は、欠片ほども評価できないです。
ソフトウェアの仕様書は料理のレシピに似ている
http://satoshi.blogs.com/life/2006/03/post_8.html
http://d.hatena.ne.jp/gallu/20061121/p2 で雑感を書いてます。
まさに今回の案件もそのニオイがプンプンしています。一人一人に悪意はないのだと思いますが、その後ろに組織的な意思が介在しているようで。工程監査などの仕組み、うまく機能すればすばらしいのですが、官公庁の案件を初めとして、十分機能しているとは言い難い状況を散見してきました。まあこれは、権限と責任のアンバランスさに因るものだと理解しています。
実際問題、案件規模が3桁億円を超えると、ごく一部のベンダーしか対応できないので、数少ない候補ベンダー同士をどうやって競わせるかがキモかと。それで成功した官公庁を知っています。
レシピの話、まさにその通りですね。結局のところ、最終的にどのような形でシステムが実装され、使われていくかをイメージできない人間は、基本設計を行うべきではないと私は思います。要件定義の終盤になったら、そういったことができる人材を投入すべきでしょう。
これは仕事全般にも言えることだと思いますが、自分がイメージできない仕事を人に丸投げするのは責任放棄に他なりません。
ただし、勘違いして欲しくないのは、ここで言うイメージというものは、自分が直接仕事を頼む、つまり権限委譲をする相手に限った話です。その相手が作業依頼したさらに別の人がどうやって仕事をするかまではイメージする必要はありません。それをやりすぎると、ワンマン社長と呼ばれるようになり、組織全体のボトルネックになることでしょう。
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吉澤さん
日本の情報処理産業をここまで貶めたのは、バブル崩壊直後の某社のダンピング合戦が遠因になっていると今でも思ってます。
某巨匠と同じだと感じてます。後に続く者のことを考えてくれたら日本初のアニメもあんな格安で作成しなかっただろう −> 現状のアニメ製作に於ける価格もハリウッド並みに成っていたかも知れません...
じゃない?
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ハードと保守費用+上流工程で取りたい取り分(時間と金両方)
=>残りわずかで物作り
=>オフショアしかない
という流れになっているからかと。
(今年は、中国、韓国、インドに投げるのも高いという事で
ベトナムやインドネシア系に投げるような話も
聞こえてきてます)
大本の入札自体「資本金XX以上」の所しか出来ない訳ですから
土建業のように最初から末端に投げれば
経費削減になるのはわかっているはずなんですが・・・。
某NASAに精密機械等を納入している中小企業とかも
「売り上げXX以上なら大企業を通さないとダメ」
っていう法律もありますよね。
常駐系の会社の場合にしても
「居ても残業をつけるな」といわれ
嵐が収まるのを体を低くして待っているので
景気のいい話は聞こえてこないですよね
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コンサルティングとアプリケーション開発を一緒に発注するってのがまずおかしい。
開発に関してもブレイクダウンおよび管理能力があれば安いベンダーに依頼できる。
能力が足りないから高い買い物をするのは止むを得ないんじゃない?
価格競争の果てに待っているのはユーザーにもベンダーにもメリットの無い不毛な世界であることはちょっと考えれば分かる話なのですが、敢えて無視している人が少なからずいることが残念でなりません。
きむこうさん、コメントありがとうございます。
仰るとおり、全体としての予算が決まっているため、要件定義フェーズまでの工数が超過しすぎると後ろの工程にかける金額がどうしても減ってしまう傾向にありました。ウォーターフロー開発の典型的なデメリットです。
特定ベンダーに全工程を一気通貫して関わって権限と責任を与えることで何とかできそうな気もします。官公庁の案件では、工程管理業者という権限だけを与えられている役割がありますが、これに責任も取らせるイメージです。
あと、安価で優秀な開発ベンダーと取引できるよう、中立団体によるランキングの仕組みがあると分かり易いのですけどね。東京海上日動ではITベンダー通信簿を作っているそうですが、こういった情報を集積して会員企業に公開するような能力認定団体があるといいですね。
アロンさん、コメントありがとうございます。
コンサル契約とアプリ開発を分けるというやり方が近年の主流だったのですけど、フェーズごとに情報伝達が分断されてうまくいかない、管理が多層化する、というデメリットが散見されます。
対応策として、戦略的パートナーを定めて、全工程に関わるベンダーを定めて一貫性のあるシステム開発をしよう、という動きがあったのですけど、その戦略的パートナーに対しておんぶにだっこになってしまったユーザー企業は高い買い物をしているようです。
ただし、ブレイクダウンと管理能力がユーザー企業にあったとしても、優秀な開発業者と直接契約できるかはまた別の話かと。そもそもそういった業者と知り合う機会がないのです。