「コストを減らせ!」
リーマンショック以降、頻繁に耳にしている言葉だと思います。IDC JapanやITRなどのIT系調査機関によれば、2010年のITに関する取り組みで最も多くなると見られているのがコスト削減であり、それを比較的簡単に実現できるのが、アウトソーシングという手法です。
アウトソーシングを一言で説明するなら、社内で抱えていた業務を社外の専門サービスに代替することです。例えば、社内PCでトラブルが生じた場面を思い浮かべてください。全て自前でやるのであれば、社内の情シス部門にデスクトップ担当チームを設け、社内で起こるPC絡みの問い合わせ全てを対応させることになるでしょう。
汎用業務を引き受けてくれる社外サービスを探すと、自社で雇うよりも安価なケースが多いので、コストのことばかり考えているマネジメント層の人が「じゃあアウトソーシングでいいよ」と判断するのは自然な流れですよね。
客観的に判断するなら、その業務に特化した人たちに対処させるのが最も好ましいでしょう。しかし、ここで一つ留意しなければならないことがあります。業務を外に出すということは、その業務を経験する機会を社内から奪うことを意味しているのです。
先ほどのPCトラブル対応業務をアウトソーシングした場合、今までその業務に携わっていた情シス部門の担当者の仕事は、アウトソーシング先へ作業を依頼することと、報告された内容を確認することくらいです。
これまで担当者が培ってきたPCトラブルのノウハウを発揮する場はなくなります。PCのライフサイクルに当たる3〜5年も経てば、それらは風化して失われるか、陳腐化して役に立たなくなることでしょう。
PCトラブル対応業務なら、別にノウハウが社内に残らずとも特に問題はありません。多くの企業では、PCは仕事を効率的に進めるためのツールですから、それらの不具合を自分たちで直すことができなくても、本業に大して影響はありません。別のPCに置き換えれば良いだけの話です。
ところが、会社のコア業務が関わってくるのであれば話は違ってきます。例えば、社内の情報システム部門が担っていたシステムのID管理業務を全てベンダーに丸投げしたとしましょう。
最初のうちはベンダーに引き継がれた業務の内容を情シス部門も理解していると思います。しかし、ユーザー部門からは様々な変更依頼が飛んできます。標準から逸脱したこのような依頼に対応するため、ID管理業務も様々な例外オペレーションを定めるようになります。いくつかの対応は文書化すらされず、ベンダー内の有識者が知るのみであるような状況になるかもしれません。
こうなると情シス部門が運用を直接行っていた頃のノウハウは通用しなくなり、現場では新しいオペレーションが実施されるようになってきます。もしこの状況で、ID管理業務を最適化するプロジェクトを立ち上げたとしたら、はたして社員中心で推進することができるでしょうか。
断言できます、間違いなく不可能です。
現場の有識者としてベンダーにも参画してもらわなければ、現状把握もままなりません。情シス部門の社員がどっぷり携わっていれば、その社員を中心に推進組織を立ち上げることもできますが、業務をまるごとベンダー担当者におまかせしている場合は、それも期待できません。
丸投げを重ねた結果、社内からID管理業務スキルが失われてしまった、ということです。
さて、このような事態に陥らないためにはどうしたらいいでしょうか。EnterpriseZineにその続きを書いているので、興味のある方はそちらを御覧下さい。
『コストを削減しつつ、スキルもノウハウも手放さないアウトソーシング』
http://enterprisezine.jp/article/detail/2098
posted by 吉澤準特 at 10:38
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