書店のビジネス本コーナーで最近スペースを拡大しているものに「思考法」というジャンルがあります。読んで字のごとく、考える方法を解説している類の書籍が並んでおり、考え方といっても千差万別なんだなぁ、とつい思ってしまいそうになりますが、どの本も実は根本で抑えている概念は一緒だったりします。
それが、メタ思考という概念。
「メタ」という表現を耳にしたことがある人は結構いるでしょうが、その意味までは意外に理解できていないのではないかと思います。実は私も大学在学中に言葉の定義をようやく知った程度でした。
今は便利になりまして、Wikipediaで調べるとすぐに出てきます。
『メタ(meta-)とは、「高次な−」「超−」「−間の」「−を含んだ」「−の後ろの」等の意味の接頭語。ある対象を記述したものがあり、さらにそれを対象として記述するものを、メタな○○、あるいは単にメタ○○と呼ぶ。』
なんだか難しそうに覚えますが、一言で言えば「上位概念化」されたものだと理解してください。ある対象固有の性質は、それを大分類として表現しなおすことも可能です。それをメタ化すると理解して下さい。
りんごのメタ化は果物、果物のメタ化は食べ物。
アリのメタ化は昆虫、昆虫のメタ化は生物。
Wiiのメタ化はゲーム機、ゲーム機のメタ化は高速演算機。
※一般社会での理解はこのレベルでOK。
研究者の人はもっと深いレベルでメタ化を考えます
なんとなく分かりますよね?
このメタ化を思考法と組み合わせると「メタ思考」というジャンルになり、これがビジネスパーソンの仕事力を左右する根幹になることに気づいた人が増えてきたため、冒頭に書いた思考法の書籍が増えてきたことにつながってます。
メタ思考によって、あまり関係がないと思われる対象を上手に共通カテゴリーに括ることで、ビジネスにブレイクスルーを起こすことが可能です。
例えば、製造業とホテル業。片方はモノを作って販売する仕事ですが、もう片方は宿泊客へサービスを提供する仕事ですよね。しかし、一見無関係に見える両者も、「在庫回転率を上げることで利益が増える業種」というくくり方をすると、新しい側面が見えてきます。
製造業はモノを作って売るのが仕事ですが、作ったモノが売れるまでの間、企業は手元にモノを置いて置かなければなりません。その結果、倉庫などでの保管費用が発生しますし、保管している期間が長いほど、そのモノを作るために費やしたお金(部品代、作業費)を別の投資に回せたのですから、キャッシュフローを悪化させる一因になります。だから、在庫を減らす(回転率を増やす)ことが重要なのです。
ホテル業も実は同じ。利益が最も多いのは全ての部屋に客が宿泊している状態ですが、観光地の連休時期などを除いて、通常はかなりの空き部屋を抱えてしまっているものです。この空き部屋を在庫と捉えると、在庫状態の部屋を如何にして減らすかが利益を増やす鍵になることが分かりますよね。
とすると、レベルの高い在庫管理技術を持つ製造業の会社なら、そのノウハウを生かしてホテル業の利益改善コンサルティングをすることも十分可能だということです。
※事実、90年代後半からこういった企業が出てきました
数学の世界で言えば、共通因数をくくり出すのがメタ思考。自分の知っている領域の知識だけではうまい解決策が見つからないとき、思考の階層を一段高めて自分の知らない領域を見つめてみましょう。うまくメタ思考がハマると、そこから新しいやり方が見えてきます。そうやって知識の源泉を大きく広げていくことができる人が、これからの社会で”デキる人”として認められることでしょう。
冬以降に本格化する企業の採用活動では、メタ思考ができる人材は高い評価を得やすいです。9月も後半に差し掛かるこの時期。来年の就職活動に備えて、今から思考法のトレーニングを始めるなら、時間的にも丁度よいかもしれません。ゼミや研究室での論文やディスカッションで、メタ思考で新しい着想を得る練習をしていきましょう。
ただし、大前提として、問題解決の考え方を基礎から理解しておく必要はあります。身につけずとも、どんな思考パターンがあるかは知っておくことで、メタ思考の幅を持たせることにつながるからです。
手前味噌ですが、拙著「フレームワーク使いこなしブック」は1章で問題解決アプローチの基礎的フレームワークを解説し、4章は、メタ思考という言葉を使っていないものの、メタ思考フレームワークで埋め尽くされています。属性連想法やシネクテクス法など、あなたの知らない実践的なメタ思考フレームワークを紹介しているので、興味があれば手にとってみてください。
「フレームワーク使いこなしブック」(JMAM)
→ http://www.amazon.co.jp/dp/4820746626/
就職活動は、メタ思考で良い結果をつかみとりましょう。