アメブロやアメーバピグでおなじみのサイバーエージェント(以下CA)が、「有能な人材が長期に渡って働ける環境を実現」させるため、新しい人事制度を導入したことが話題になっています。
内容は以下の通り。
【退職金制度】
・30代から積立開始、40代から受け取り可能
・業績連動で、営業利益の一定率を配分(利益が増えれば積立が増える)
・営業利益が100億円を切った年は積立ゼロ
【ミスマッチ制度】
・下位5%はD評価
・D評価2回目で部署異動または退職勧奨のいずれかを選択
・仕事のパフォーマンスだけでなく、価値観、文化の合わない人も対象
・評価は、上司/人事/役員も加えて実施
・嫌われたくないや傷つけたくないといった理由でD評価を部下に与えない上司がいれば、上司自身をD評価
・本当にD評価とすべき人がいない場合はゼロでも構わない
ミスマッチ制度と同様の仕組みを採用している企業は日本でも外資系を中心に存在しており、特に投資銀行や一部証券業務、コンサルティングファームでは比較的一般的です。
それら企業が仕組みを導入している理由は、優秀な人材をキープしつつもパフォーマンスに劣る人材を強制排除するカルチャーを社内全体に浸透させて、人材の定期的な入れ替えによる組織の健全化を果たすためです。大半の国内企業のようにパフォーマンスの低い社員をずっと抱えていると、個々の人材の能力に依存するところが大きいこれら企業は、業績効率が悪化して組織が立ち行かなくなります。だから、強制排除(アップ・オア・アウト)の仕組みを根付かせる必要があったのです。
それゆえ、長期間企業に在籍することが一般的ではなく、退職金制度も必要最低限しか整備されていません。むしろ毎年のサラリーとボーナスでそれを補うという発想です。その収入からどうやって老後の資金を捻出するかは各人の自由裁量。
だから、ミスマッチ制度による期待効果と退職金制度によるそれは相反する可能性が高いのです。先に紹介した投資銀行やコンサルは在籍社員の平均年齢が30代前半。一方で、CAが導入する退職金制度は40歳から受け取り可能になるのですから、多くの人が退職金制度の恩恵を受けることができず、その分会社に利益が吸収されるのではないかと邪推したくなります。
もうひとつ考えるべきことがあります。それは、ミスマッチ制度における評価のやり方です。相対評価で下位5%にD評価を突き付けるのですから、その理由は客観的に明確になっていなければなりません。
投資銀行やコンサルティングファームでは、企業に対する貢献度を定量・定性評価して相対順位を決めますが、貢献度を構成するKPIをどう設定するかは企業の業務内容や風土によって変わります。
ある企業では、営業部隊・サービス提供部隊・社内業務部隊ごとに大括りの褒章枠を設定し、それぞれの部隊で個別に評価を下すことで、業務特性に配慮した相対評価を実現していました。
別の企業では、評価指標に「顧客への価値提供」と「人材育成への貢献」を設定し、チーム育成ができない人材は一定以上の評価がもらえません。これによって個人プレーよりもチームプレーを重視するような人材が評価され、組織力の底上げが自発的に行われるように仕組まれています。
他にも、評価グループ単位で管理職以上が一堂に集まり、合議によって一人ひとりの評価を決める手法を採用している企業もあります。
※もちろん事前に予備評価を何度か繰り返した上で最終評価する形です
翻って、CAではどこまでの仕組みを考えているのでしょうか。
現場での働きぶりができるだけ客観的に評価される仕組みをどうやって実現するのか、正解はひとつではありません。複数の上司が話し合って対象社員の評価を下すのか、360度評価のように当人の部下や同僚からも評価させるのか、それは企業カルチャーによりけりでしょう。
はてなブックマークのコメントを見ると、
・私情によるD判定が横行する未来しか見えない
・数字に基づく評価ではないのでズブズブなお友達会社になるのでは?
・D評価の人を辞めさせても第二第三のD評価が・・・
・社員の保身や足の引っ張り合いを生みそう
・YESマン養成制度にならなきゃよかろうがね
などの懸念やネガティブコメントがいくつも見つかりましたが、ミスマッチ制度と同様の仕組みをうまく運用している会社は多数あります。
ただし、評価者全員が制度目的を十分に理解しないと、全体最適とはいえない評価結果になってしまうことは、富士通社が成果主義評価の導入に失敗した事例から明らかです。ミスマッチ制度自体は組織を活性化させる良案だと思いますが、その実現に向けて、前述したいくつもの準備が必要になることを忘れてはなりません。
posted by 吉澤準特 at 03:58
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