IT業界では金勘定をする際に「初期費用」と「ランニング費用」に分けて考えます。
前者はシステムを稼働させるまでに必要となるSW製品やHW製品の購入費用と開発作業費用、後者はシステムが稼働した後に発生する製品の保守費用だと単純に考えて下さい。
システムを作るのは半年や1年であっても、そのシステムが廃棄されるまで5年以上をかけることが一般的なので、初期費用を減らす努力よりもランニング費用を減らす方がコスト削減に効果が大きかったりします。
逆に言えば、製品を販売しているベンダーは、ランニング費用にあたる保守サポート料金が売上の源泉といってもよく、製品価格の値引きに応じることはあっても保守サポート料金は絶対に値引きしません。
それほど重要な位置づけにある保守サポート料金なのですが、ここ最近、業界内の影響力が大きいビッグベンダー4社(Oracle、SAP、IBM、Microsoft)が立て続けに値上げに動いています。
以下、ITproの記事から抜粋します。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20111206/375994/
【日本オラクル】
――。日本オラクルは2011年11月に導入する新たな保守サポート料金「更新時調整料金」を「Premier Support」に適用する。Premier Supportの主な内容は、ソフトの不具合の修正、法改正対応のためのソフトの修整、Webによる24時間の問い合わせ受け付け、新バージョンの無償提供などである。 日本で2011年11月から2012年10月までに更新を迎える保守サポート契約の調整率は、2%と決まっている。
(参考:OracleはItaniumプロセッサの課金ルールも変更)
日本オラクルは、プロセッサごとの係数を決めるにあたって、そのプロセッサで稼働するOSの数と、処理性能の中期的な見通しの2点を重視するという。OSの数については、動作OSが多いほど係数を小さくする。従って、稼働OSが1種類しかないと係数は大きくなる。Itaniumの係数がそれに相当する。
【SAPジャパン】
SAPジャパンは2011年1月から、保守サポートサービス「Enterprise Support」の料金を段階的に引き上げている。値上げは2016年まで続く。
【日本IBM】
日本IBMは4月、グループウエア「Notes」などの保守サポートについて、1年単位で自動更新する契約形態に変えると発表した。変更するのは2012年2月からだ。それまでは、契約期限の前に更新の意思表示をしないと自動解除となる。新ルールによって、継続的な保守サポートが必要なユーザー企業は便利になる半面、同サービスを打ち切りたいと考える企業には解約手続きの手間が生じる。
【日本マイクロソフト】
日本マイクロソフトは、「ソフトウェア アシュアランス(SA)」の強化に取り組んでいる。SAは、Windows OSやOfficeなどといった同社製品の企業向けライセンス形態の一つ。SAの年額料金は製品のライセンス料金の約25〜29%、契約期間は2〜3年だ。契約期間内にソフトを新バージョンに入れ替える予定がない企業にとって、魅力が乏しい。
(参考:クラウドとオンプレミスの料金体系を是正)
日本マイクロソフトでは、グループウエアと「Office 365」をユーザー企業が併用する場合、追加料金を支払うことなく、グループウエアのライセンスをOffice 365の利用権に切り替えられるようにしました。従来は、グループウエアのライセンス料金とは別に、Office 365の料金を支払う必要がありました。
なぜいま、ソフトメーカーはライセンス料金の改定に臨むのでしょうか。
ソフトメーカーの言い分をまとめると、「新バージョンのソフトを開発したり保守サポートのサービス内容を充実したりするためのコストが年々増えており、その一部を転嫁せざるを得なくなった」という答えに集約されます。
一方、ユーザー企業の声を総合すると、「値上げは受け入れ難い。サービス内容は今のままで結構だから、料金は据え置きか値下げを望む」という意見が過半数です。
例えば、保守サポートサービスには新バージョンの無償提供というサービスが入っていることが多いですが、「バージョンアップの予定がないから、このサービスは不要」とみなす国内ユーザー企業は少なくありません。
つねに新しいバージョンを開発して製品のアップグレードを促さなければ、SWベンダーは規模拡大を維持できません。拡大路線を志向するゆえ、一旦売りつけた製品についても、物価上昇に伴う金額の引き上げを考慮することになります。
一方で、ユーザへ提供するサービスのバージョン違いを減らすためには、強制的に過去バージョンのアップグレードを促さなければなりません。サポートするバージョンが増えるほど、保守作業も要員も複雑になるからです。
これらの費用増プレッシャーを背景に、大手ベンダー4社はもっとも確実に回収できるサポート料金への費用転嫁を図ったと推測されます。
しかし、それらの理由を全面に出すと「ユーザー目線の欠如だ」と言われてしまうため、もっともらしく「サポート機能の充実」という理由を打ち出しています。いわば、保守サービスのアップセル(1つ上のグレードを売りつけること)です。
色々と書きましたが、ベンダー側の各論を聞く前に、そもそもの大前提としてユーザ企業が納得していない点があることを忘れてはいけません。それはライセンス料金の根拠です。ITproの調査によれば、「なぜその値段なのかと、コスト構造の説明をメーカーに求めても、納得できる答えを得たためしがない」(ある流通業のシステム担当者)とのこと。
ベンダーからすれば、こういった意見は「知的財産は物売りとは違うことを理解して欲しい」という反論をしたくなるでしょう。しかし、すべてのベンダーのソフトウェア保守サポート費用が製品価格の22%前後に収斂されるなんて、不自然以外の何物でもありません。むしろ、製品の特性によって、もっと上下に幅があっても良いはずです。
業界の悪しき慣習を打破するため、ユーザ企業も新興ベンダーの製品採用をもっと積極的に進めましょう。売上上位のベンダーから選ぶ、なんて保守的な製品選定の姿勢では、大手ソフトウェアベンダーだって売上至上主義から抜け出せず、結局割りを食うのはユーザ側になりますよ?
上記の要因も大いにありますが、加えて個人的に思う理由は、以下の通りです。
「一度システム(ソフトウェア)を導入さえしてしまえば、多少足下を見てランニングコストを値上げしても、大多数のユーザーは渋々払うから」です。
当たり前の事ですが、ソフトメーカーは民間企業であり、民間企業は儲ける事が全てにおいて第一優先となります。
よって、理由に関わらず、値上げしてもユーザーが離れないのであれば、いくらでも値上げしたいと思っています。
でも、初期費用を高く設定してしまうと、多くのソフトは競合がいますので、あまり値上げ出来ません。
じゃあどうするかと言うと、保守契約を結んでいる既存ユーザーへの値上げです。
既存ユーザーは多くの場合、簡単に導入済みのシステムやソフトウェアを乗り換えできない事が多いです。
(スイッチングコスト)
そして、簡単に乗り換えもできないように、メーカーはあの手この手で、既存顧客のスイッチングコストを高める努力(?)を行っています。
この考えに似たところで、日本における携帯電話の料金設定や、1円入札を行う思惑と似ていると感じています。
この「取りやすい所から取る」という考えと、実際に「取りやすい所から取れてしまう」現状である以上、この業界の流れは変わらないと思います。
むしろ、このままではさらに酷くなる方向と考えた方が良いです。
1円携帯・1円入札のような極端な価格体系が、どんどん増えていくと思います。
この流れを変えるには、下記のように大きく分けて2つの手段がありますが、なかなか難しいと思います。
1.既存ユーザーが、メーカーの値上げに対して[解約]という反抗を行い、[解約理由は毎年の料金アップだ]とメーカーに訴える事。
2.国・公正取引委員会が、独占禁止法による取り締まりを行う為の取り決めや仕組みを強化する。