米国がスパイプログラム「PRISM」を使って世界中の情報の盗み見していたとされる問題について、今や米国は欧州の同盟各国からも非難や疑念のまなざしを向けられている状況ですが、ここにきて、仮想敵国の一つとされる中国から痛烈な批判をされています。
以下、キーマンズネットからの引用です。
『そんな状況の中、あの国もこの件について言及を始めた。中国政府系の英字新聞「グローバルタイムズ」紙の社説で、名指しで批判されたのが米・シスコ。シスコ自体は今回の情報傍受やらPRISMやらに直接加担しているということはないハズなのだが、グローバルタイムズ紙は一連のニュースと関連づけて「米国メーカーの通信機器が中国国内の安全保障面に脅威を及ぼす!」と述べているのだ。
同紙は「米国はインターネットと通信機器を使ってほとんど意のままに中国を攻撃できる!」とも主張。中国市場で年間20億ドルも売り上げているシスコの名を挙げ、その通信機器によって中国国内の情報がアメリカに傍受される可能性がある、と公言しているのだ。そして、国内の通信事業者に対して“脱シスコ”のうえで、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE:ジョンシン)といった中国国内の通信機器メーカの製品を積極的に採用することを望む、としている。』
(キーマンズネット)
http://www.keyman.or.jp/at/30006180/
中国政府系の英字新聞「グローバルタイムズ」とは、人民日報の英字版だと思えば分かりやすいでしょう。要するに、中国共産党の主張を世界に訴えかける御用新聞ということです。ですから、グローバルタイムズが掲載している「米国メーカーの通信機器が中国国内の安全保障面に脅威を及ぼす」という主張は、中国共産党の意見になります。
相当無理のある理論に思えますが、実は今回の中国共産党の主張とほとんど同じことを米国政府が中国相手に仕掛けたことがありました。3か月ほど前の出来事です。
『米政府の一部機関は、中国企業からIT(情報技術)製品を購入する際に必ず連邦捜査局(FBI)などの審査を受けることになった。製品に隠された機能によって、コンピューターシステムから機密情報を持ち出すスパイ行為が行われたり、システムを破壊するサイバーテロが起きたりする危険性を警戒したためだ。
(中略)
対象となる機関は、司法省、商務省、米航空宇宙局(NASA)、国立科学財団(NSF)の四つ。中国によるサイバー攻撃の懸念を巡っては、米下院の情報特別委員会が昨年10月に報告書を出し、中国の通信機器会社「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」を米政府のシステムから排除することや、米民間企業との取引自粛を求めた。』
(これからはFBIに全ての中国IT製品を閲覧させる)
http://it-ura.seesaa.net/article/353411800.html
つまり、今回の件は、米政府から受けた仕打ちの意趣返しなのです。中国にとっての華為技術と中興通訊は、米国におけるシスコシステムズなんだぞ、という非常に分かりやすい当てつけですね。
もっとも、全世界で使用されているシスコシステムズの通信機器を排除しようと呼びかけているのは中国が初めて。その他の国でこの動きに同調しようという話は聞きません。一方で、華為技術については、2012年3月にオーストラリアが、同年10月にはカナダが、安全保障上の理由から国営・政府系通信ネットワークから除外する旨が公表されています。
火のない所に煙は立たぬ、という諺がありますが、華為技術については中国共産党がサイバー攻撃を行うインフラ基盤を担っていると目されており、先の2国と米政府からは限りなくクロに近いグレーだという目で見られていることが分かります。
思わぬとばっちりを受けたシスコは、中国市場の売上が年間20億ドルに上ることもあり、なんとか風評被害を抑えたいところでしょう。しかし、華為技術などの中国企業の技術革新は目覚ましく、そう遠くないうちにシスコのコアルーターに取って代わることは避けようがないように思えます。
なぜなら、攻撃者であると同時に、多数のサイバー攻撃に晒されているという事実も中国にはあり、セキュリティホールへの対応速度は同国にとって死活問題であるからです。
現在の中国における政府機関は多数のシスコ社ルーターを導入していますから、新しいセキュリティホールが見つかった場合、シスコがリリースするセキュリティパッチを待つ必要があります。シスコは米系企業であるため、中国にしてみれば、セキュリティパッチのリリースを意図的に遅らせて、その間に米国政府がサイバー攻撃を仕掛けるとのケースを想定してしまうことも無理からぬことでしょう。むしろ、国防上、当然考えるべきシナリオです。
であれば、根本的対応として、そもそも米国製のシスコではなく自国製の華為技術や中興通訊の通信技術を使えばよい、との結論に達することは容易に想像できます。
今後、実際にシスコの通信機器が中国市場から排除されていくのか、同社の次の四半期レポート(第4四半期)が発表される8月に、そのすべてが分かることでしょう。
posted by 吉澤準特 at 03:07
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