IT業界のサグラダファミリアと名高い特許庁システム開発について、先日衝撃的なニュースが駆け巡りました。それは、特許庁側の不手際に起因して失敗したITシステム開発プロジェクト費用をベンダー側が全額返還したというものです。
『2012年の特許庁システム開発中止、開発費全額返納のなぜ』
http://itpro.nikkeibp.co.jp/atcl/column/14/346926/073100025/
そもそもの話のはじまりは2005年度に遡ります。特許庁では、特許・意匠・商標・実用新案に係る出願の基本業務の刷新が計画され、開発ベンダーとしてNTTデータ、日立、東芝ソリューションが入札に参加していましたが、予定価格の半分強という圧倒的なコスト点の評価で東芝ソリューションが落札しました。同じく、アクセンチュアがPMO業務を落札しています。
しかし、度重なる仕様変更やスケジュール変更により、2011年度にプロジェクトが中止されました。その結果、それまでに東芝ソリューションへ約25億円、アクセンチュアへ約30億円支払ったことが2012年の会計検査院指摘で問題視され、契約解除に伴う違約金交渉が長らく続いていたのです。
もともと特許庁システムの現行ベンダーはNTTデータであり、現システムに精通している点を見込んで同社へ引き継がせようという動きもあったようですが、特許庁システムの入札関連情報の不正入手が関係者にリークされてしまい、NTTデータに仕事を発注することを世論が許さない流れが生まれてしまいました。
『特許庁でシステム計画漏らした見返りに200万円以上のわいろ 』
http://it-ura.seesaa.net/article/154186627.html
このことで現行ベンダーに頼ることができずに2012年にプロジェクトは頓挫しました。最終的には今回のニュースで流れた通り、東芝ソリューションとアクセンチュアが詰め腹を切らされたという次第です。
最初に取り上げたITproでは、別エントリーの編集長日記では、ある特許庁職員の話として次の談話を載せています。
『開発失敗の責任をめぐって法廷での争いに発展すれば、特許庁、IT企業ともに多大なマンパワーが割かれる。IT企業にとっては、司法で認定された瑕疵によっては、追加の行政処分が下る可能性もある。特許庁は今回の『和解』で、会計検査院に不当な支払いと認定された支出金をそのまま取り戻すことができる。一方でIT企業2社は、新たな処分などで今後の政府入札に支障を来すリスクを取らずに済む、という構図だ。』
Twitter上では、これが前例となってITベンダーに不利な判決が続くことを懸念する流れが見受けられましたが、「今回の件は特例にあたるため、そうした懸念はあてはまらない」と関係者は述べています。それでも業界関係者からすると不安を覚える結論に見えてしまうのですが、そうまでして2社が特許庁と和解したかったのは、まさに「新たな処分などで今後の政府入札に支障を来すリスクを取らずに済む」という点に尽きるのでしょう。
なぜなら、日本の電子政府予算というのは膨大であり、毎年徐々に減ってはいるものの、それでも年に5000億円もの市場があります。
参考『政府のIT調達における課題等について』
P141.平成13年度から平成22年度までのIT関連予算の推移
http://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2012pdf/20121005140.pdf
たとえ景気が悪くなろうとも、公共投資的な意味合いも含めて、電子政府予算は必ず一定額が確保されています。安定的な収益を確保するのに、官公庁からの受注を計画に含めない大手SIerはいません。この市場に参加できなくなるなるリスクを回避できるなら、目先の20億、30億円の損害は許容すべき、という経営判断は十分理解できます。
本件はこれにてひと段落、ということになりますが、次期システムの開発ではこの教訓が強く活かされることを期待しています。少なくとも、現行ベンダーを巻き込んで、あらかじめ現行システムのシステム要件定義書は成果物として納品させてください。
posted by 吉澤準特 at 10:55
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