問題です。
「モノの売り買いで費用を確認する行為を何というでしょうか?」
ちょっと簡単すぎましたね。さあ答えを確認してみましょう。
Aさん「見積もり(みつもり)です」
Bさん「見積り(みつもり)です」
Cさん「見積(みつもり)です」
ん?3人とも「みつもり」と読んでいますが、書き方が違います。同じ言葉を表しているのにどうして表現が三者三様なのでしょうか?
答えは、日本語のルールにありました。
日本語の送り仮名は、内閣告示第二号の「送り仮名の付け方」によって定められています。その中で、「活用のある語から転じた名詞及び活用のある語に「さ」「み」「げ」などの接尾語が付いて名詞になったものは、もとの語の送り仮名の付け方によって送る」とありました。
(文部科学省 送り仮名の付け方)
→ http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19730618001/k19730618001.html
「みつもり」とは「見積もる」という言葉から派生している言葉なので、同じ送り仮名を当てはめた「見積もり」が正しい表現になるということですね。
ということで正解はAさんだけ・・・というわけではないのです。
この内閣告示には続きがあり、通則2に「活用語尾以外の部分に他の語を含む語は、含まれている語の送り仮名の付け方によって送る。」とあり、さらに「読み間違えるおそれのない場合は,活用語尾以外の部分について,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。」と書かれているのです。そして具体例の一つとして挙がっているのがこちら。
「積もる(積る)」
ドンピシャじゃないですか。つまりBさんの「見積り」も正解であり、外れはCさんだけ・・・というわけでも実はありません。
さらに内閣告示には続きが述べられており、通則6の許容部分に「読み間違えるおそれのない場合は、次の( )の中に示すように、送り仮名を省くことができる」という記載があります。
「売り上げ(売上げ・売上)」
「申し込み(申込み・申込)」
「呼び出し電話(呼出し電話・呼出電話)」等
ということは、見積もりだって「見積り」も「見積」もありってことです。つまり、正解はAさんとBさんとCさんの全員でした。
この内閣公示第二号には、IT業界の住人を悩ませるもう一つの問題も取り扱っています。それは「外来語の語尾」の示し方です。
この公示の中で国の見解が示されており、外来語で語尾に長音が付くものは、それをつけて記述することを奨励しています。例えば、Computerはコンピューター、Serverはサーバーとするのが正しいです。
(文部科学省 外来語の表記)
→ http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19910628002/k19910628002.html
でも、皆さんの周りでは「コンピュータ」や「サーバ」と書かれた資料を目にすることも多いのではないでしょうか。その理由はJIS(日本規格協会)にあります。
実はJIS(日本規格協会)が「情報処理」の分野に限ってのみ、国の見解と真っ向から対立するルールを推奨しているのです。具体的に以下のルール適用を謳っています。
・3音以上からなる用語は長音を省略
→コンピュータ、マスタ、ユーザ、データセンタ 等
・2音以下からなる用語は長音を記述
→コピー、キー、エラー 等
内閣告示とJIS規格のそれぞれに準拠した文章を書いてみるとこうなります。
「このデータセンターを利用するユーザー企業はX社のインターフェースを使う」
「このデータセンタを利用するユーザ企業はX社のインタフェースを使う」
技術文書ではよく見る表記ですから、なんとなく省略型を使っている人も多いと思いますが、ちゃんとルールとして明文化されていたわけです。内閣告示が優先されるものになりますが、慣例としてJIS規格の表記も許容されているので、いずれの書き方も正しいというオチです。
「見積もり」や「サーバー」などの表記が自分の考えているものと違うことを気にする人が少なからずいますが、これもダイバーシティ(多様性)のひとつだと考えて、あまり目くじらを立てないように。相手の使っている言葉に合わせて使い分ける人はむしろ「コミュニケーションセンスがあるね」と考えるようにしましょう。
ただし、同じ文書内で言葉が揺らいでいる人は表現を統一した方がいいですね。
「外資系コンサルが実践する資料作成の基本」(JMAM刊)にて、資料作成の王道15に「用語の定義を統一する」ことを挙げていますが、同じチームやプロジェクトに関わる人の中で用語に揺らぎがあると、資料としての統一感が欠けてしまいます。
皆さんの中にも経験のある方はいるかと思いますが、つまらない用語の揺らぎに固執されて資料の中身にネガティブな偏見を持たれたり、本質的な議論に入れないまま会議が終わるということはしばしばあります。そうしたムダが起きないよう、普段から意識的に言葉の揺らぎをチーム内で無くしていきましょう。