問題です。
IBMという企業はどんな事業を有しているでしょうか?
以下から当てはまるものを全て選んでください。
(1)PC事業
(2)プリンタ事業
(3)サーバー事業
(4)ネットワーク事業
(5)POS事業
(6)メインフレーム事業
(7)ストレージ事業
(8)ソフトウェア開発事業
(9)システム構築(SI)事業
(10)コンサルティング事業
(11)アウトソーシング事業
(12)コールセンター事業
(13)金融事業
IT業界に身を置く人間であれば、そんなに難しくない問題だと思いますが、非IT業界人にとっては分かりづらいのかもしれません。というのも、こんな記事を見つけてしまったからです。
『業績低迷が続くibmに求められる「変革」』
http://www.iforex.jpn.com/news/%E6%A5%AD%E7%B8%BE%E4%BD%8E%E8%BF%B7%E3%81%8C%E7%B6%9A%E3%81%8Fibm%E3%81%AB%E6%B1%82%E3%82%81%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%8C%E5%A4%89%E9%9D%A9%E3%80%8D-2467
FX事業会社のニュース記事ですが、思わず驚愕の内容に目を見開いてしまいました。その記述がこちら。
「IBMの業績が低迷しているのはIBMのせいばかりではなく、ドル高のためでもある。IBMは世界各国で製品を販売しており、海外の売上がドル高のために米ドル建てにすると目減りしている。」
なるほど。
「ただ為替以外の要因として、やはりIBMのこれまでの主力事業だったパソコンの需要が少しずつ落ち込んでいるのが大きい。2010年代に入ってスマホやタブレットが普及してきたため、パソコンの需要が頭打ちから減少に転じている。」
ん?
「IBMと聞けば、多くの人はパソコンのハードを思い浮かべるだろう。IBMはそれだけコンピューターのハードに力を入れてきたが、今回の決算におけるハードウェア部門の売上は、32%減だった。」
んん?
「パソコンが世界から消えることは当分ないが、パソコンが主流だった時代は終わりに近づきつつある。これからはスマホやタブレットが個人向けコンピューターの中心となり、その時代に合わせてIBMのビジネスモデルも変わることが必要になってくる。」
これらのコメントの何がおかしいのか、分からない人のために冒頭の問題に立ち戻ってみます。
まず、IBMの歴史から。IBMは1911年に立ち上がり、1924年から「International Business Machines」という名称を用い始めました。IBM社は2011年を創立100周年として記念サイトをオープンしているので、1911年からIBMが始まったと考えてよいでしょう。
『IBM 100年の軌跡』
http://www-03.ibm.com/ibm/history/ibm100/jp/ja/stories/
1914年12月、トーマス・ワトソン Sr.(Thomas Watson Sr.)は、C-T-R(Computing-Tabulating-Recording)社の部門責任者を初めて全社的に招集しました。C-T-R社は、1911年に、いくつかの合併を経て設立された企業で、1914年5月、経営者として迎えられたワトソンは、その小さなまだまとまりのない複合企業を、1924年に最終的にIBMと改名する企業へと再構築したのです。
その後、1947年から現在の会社ロゴとほぼ同じものを使用し始め、パンチカード事業、タイプライター事業からコンピューター開発事業へと軸足を移し始めます。その後、メインフレーム事業、ネットワーク事業、サーバー事業と規模を拡大し、80年代には出遅れていたPC事業にも本腰を入れ始めます。Windows95が発売された90年代半ばから後半は、日本でもAptiva(アプティバ)という名前のPCをSMAP香取慎吾が宣伝していたことを覚えている人もいるでしょう。
『【CM】IBM Aptiva 香取慎吾 アンディ・フグ(1996年)』
https://www.youtube.com/watch?v=0WGKuhEhMts
90年代にIBMは「選択と集中」のポリシーに従って、タイプライター事業・ネットワーク事業を売却しています。これは、他社との差別化が果たせなくなった非コア事業を切り離すことで収益性を高める戦略でした。
2002年にはプライス・ウォーターハウス・クーパース・コンサルティング(PWCC)を買収し、IBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)を経てコンサルティング事業を強化しました。合わせて、システム構築事業、アウトソーシング事業が強化されています。
しかし、ついにPC事業も非コアに分類され、2004年にLenovo(聯想集団有限公司)への売却を判断します。看板商品だったThink PadのIBMロゴは、2008年の北京オリンピックまでにLenovoロゴへ完全に切り替わりました。また、その少し前にHDD事業を日立へ売却しています。2006年にはプリンタ事業をリコーへ、2012年にはPOS事業をTECへ、2013年にコールセンター事業をSynnexへ、そして2014年にサーバー事業をLenovoへ売却しました。
ということで、冒頭に列挙した13事業のうち、残ったのはこれだけ。
(6)メインフレーム事業
(8)ソフトウェア開発事業
(9)システム構築(SI)事業
(10)コンサルティング事業
(11)アウトソーシング事業
(13)金融事業
この結果、一時は世界最大の企業と呼ばれたIBMもAppleやGoogleの後塵を拝しています。これだけ事業をスリム化したのですから、それも当然でしょう。
さてさて、ここでようやくこのエントリーで言いたかったことに到達します。
エントリー前半で取り上げたFX事業会社のニュース記事にあった「スマホ隆盛の時代だからパソコン事業がダメージを受けたIBMは売り上げを減らしている」というロジック、ここまでIBMの歴史を学んできた皆さんなら、その不自然さに気づきますよね?
IBMへの理解を改めて深めたい人は、途中で紹介したIBM創立100周年サイトをご覧ください。アポロ計画の話、フロッピーディスクの話、人工知能Watsonの話など、新しい発見がきっとたくさん見つかります。
posted by 吉澤準特 at 03:05
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