CNET japanブログで江島さんが「ニッポンIT業界絶望論」という過激な
タイトルで興味深いエントリーを書いています。
出だしでバッサリと「日本のIT業界は救いようがない。絶望的としか言
いようがない 」と切り捨てており、その後はSIerが本業としている受託
開発の将来性の無さを率直に訴えかけ、「受託開発の世界にはエキサイ
ティングな革命の歴史とは無縁である」と述べてます。
しかしながら、正直、私は同意できません。
むしろ、私の答えはこうです。
「日本のIT業界はもっとエキサイティングになれる!」
江島さんの話をざっくり要約すると次の通りです。
・IT業界(SIer)は受託開発がメイン
・受託開発にはイノベーション&エキサイティングがない
・低い生産性の死に体企業の延命を国策でやっている
・市場メカニズムを働かせるため、死に体の受託開発会社から逃げろ
これだけ読むと正しい気がします。確かに部分的には私も同じ考えを持
っており、今のIT業界はレベルが低いと感じています。
しかし、「受託開発にはエキサイティングがない」、「受託開発会社か
ら逃げろ」という部分にはちょっと疑問を抱かざるを得ません。
受託開発に対して江島さんがイノベーションやエキサイティングを感じ
られないのは、顧客の業務課題をヒアリングしてシステムに落とし込む
ことで解決するいうアプローチが全てだと考えている点に起因するよう
に私は理解しましたが、それは本当に正しいのでしょうか?
前回のエントリー「IT業界人は自分のドッグフードを食べよ」で私が述
べていることの繰り返しになりますが、クライアントとSIerは戦略的な
パートナーシップを結ぶ段階にきています。
【参考:IT業界人は自分のドッグフードを食べよ】
→ http://it-ura.seesaa.net/article/65194532.html
実際にそのようなアクションを起こしているSIerは、受託開発を切り口
として、そこからクライアントの問題点を分析し、追加提案を行ってお
り、時としてイノベーションを起こすこともあります。
例えば、物流効率化システムの受託開発を請け負う場合、クライアント
のRFPには単なる業務効率の観点しか盛り込まれていないとしても、そ
こからリアルタイムに在庫を確認できる仕組みを発展させ、店舗や事務
所に出荷可能在庫情報をタイムリーに提供するということもできると思
います。
また、大規模量販店などに設置されている情報端末やポイントサービス
端末に係る受託開発をしているなら、エンドユーザ(コンシューマ)に
対する新サービスの提案も可能でしょう。
具体的なベンダー名を挙げることは控えますが、このように受託開発を
取っ掛かりとして案件を拡張したり、自らニーズを作り出す、場合によ
っては新サービスにまで結びつけるということをしています。
ここまで読んで、「それはクライアントの企画部が行う仕事だろう」と
考える方がいるでしょう。そのとおり、それは正しいです。しかし、戦
略的パートナーになろうとするなら、情報システム部門だけを相手にす
るのではなく、経営やITの企画を行っている部門とも太いパイプを築か
ねばなりません。
だからこそ、昨今では、大手SIerが次々に中小規模のコンサルティング
ファームを買収もしくは資本提携しているのです。
IBM :プライスウォーターハウスクーパースを買収(2002年)
NEC :アビームコンサルティングと戦略的資本提携(2004年)
日立:エクサージュ(後の日立コンサルティング)を買収(2006年)
富士通:プロメインテック ノバクサを買収(2007年)
【参考:SIerが買収or提携するコンサル一覧】
→ http://it-ura.seesaa.net/article/65679596.html
コンサル部門を自社に取り込むことで、SIerにはどのようなメリットが
生まれるでしょうか。
コンサルは要件定義よりも前の段階からクライアントに食い込んでいる
ことが多く、その相手は企画部であることがよくあります。SIerがクラ
イアントにとって企業戦略を支えるITを提案できる戦略的パートナーと
なるために必要な相手と既に関係を持っているのですから、SIerがコン
サル会社に手を伸ばしているのもお分かりでしょう。
付け加えると、買収したコンサル部門とSIerの既存部門間での人事交流
も発生しますから、今現在を受託開発エンジニアとして活躍している方
でも、彼らと共同でクライアントに提案する機会は増えるでしょう。
かつての姿を”SIer1.0”と呼ぶならば、受託開発という枠から飛び出そ
うと積極的なアプローチを展開しているSIerは、”SIer2.0”とでも呼ぶ
べきまったく異なるステージに駆け上っています。
このような流れをみると、IT業界が迎えている変化は確実に良い方向に
向かっているのだと私は感じるのです。
きっと、日本のIT業界はもっとエキサイティングになれます。
posted by 吉澤準特 at 15:07
|
Comment(0)
|
TrackBack(0)
|
業界裏話